会報「SOPHIA」 平成28年10月号より

シンポジウム第1分科会
立憲主義と民主主義を回復するために
〜安保関連法と秘密保護法の適用・運用に反対し、その廃止を求めて〜



憲法委員会 委員 川  口   創 

  1.  第59回日弁連人権擁護大会の3つのシンポジウムの第1分科会として、「立憲主義と民主主義を回復するために」が開かれました。
     私は実行委員として企画に関わっていた立場も含めて、ご報告いたします。
     昨年9月19日、安倍政権は安保法制を成立させました。この間、日弁連や各単位会において、安保法制は、「これまで憲法上許されないとしてきた集団的自衛権行使を認めるなど、憲法違反の法律である」として、会を挙げて安保関連法に反対してきました。
     法律は成立しましたが、同法の適用、運用に反対し、その廃止を求めた新たな運動をしていくことが、立憲主義と民主主義の回復のための弁護士会の使命ではないか、として、今回の人権大会では第1分科会として企画を持つこととなりました。
  2. 2 当日のご報告に移ります。

    (1) 当日は、まず、第1部として、日弁連の活動報告から始まり、各地の弁護士会の活動紹介がスライドを通じて行われました。全単位会の報告なので、時間がかかりましたが、全国各地で様々な取組をしたのだということがよく分かりました。全国的にも当会はがんばっていたと思いますので、もっと積極的にアピールしておけば良かったと思いました。


    (2) 第2部は、TBSの報道番組での安保法に関する発言を安倍政権から批判され、その後、結果として番組を降板した、岸井成格さん(毎日新聞社特別編集委員)の基調講演「立憲主義と民主主義を回復するために」でした。岸井さんは、安保法成立直前に、ジャパンハンドラーとして有名なアーミテージの発言を番組で取り上げたことを紹介されました。
     アーミテージは「米軍のために自衛隊に協力して欲しいと言っても、憲法9条がバリケードのように立ちはだかっていた。しかし、安保法が出来ることで、このバリケードが完全に取り外された。これで、自衛隊は米軍のために戦場にいける」と述べており、この重要な発言を安保法成立直前に報道したことで、安倍政権から目をつけられた、と仰っていました。
     そして、「権力は絶対的に腐敗し、時として暴走する。腐敗が始まった、暴走が始まったことを、いち早く感知し、いかにブレーキをかけるか、これがメディアの使命だ。それが今果たせているだろうか」と仰っていました。
     私たち法曹の役割も同じではないか、しっかり役割を果たしていかねば、と思いました。
     そして、安倍政権は着々と、戦争が起きることを前提に、その時に一致して戦争が出来る体制を作っていること、日本版国家安全保障会議(NSC)を既に作り、戦争を開始する際に閣議決定の必要すらない状況にしてしまったこと、その際の記録も一切残さないための特定秘密保護法も、ワンセットで進められてきたことを指摘されました。
     衝撃的だったのは、「安倍政権が総裁の任期延長をすれば、戦後最長の内閣を超え、明治維新後、最長の内閣になる」という点を指摘されたことでした。
     「これだけの期間で、安倍さんはやりたいことを全部やる、メディア規制もすべて、選挙の時はひたすら争点を隠しながら」
     そして岸井さんは、今、まさに歴史の重大な局面に立っている、ということを指摘され、私たちがどう時代に向き合うかが問われている、ということを痛感させられました。


    (3) その後、第3部でザ・ニュースペーパーによるコント「安保法制と秘密保護法」があり、場が和んだ後、第4部で、ジャーナリストの西谷文和さんの報告「中東の現状〜武力行使がもたらしているもの〜」がありました。西谷さんからは、イラク戦争から今のシリア、イラクの状況にどうつながっているか、日本が取り組むべき方向性とは何か、ということをご報告いただきました。
     しかし、西谷さんの持ち時間はわずか40分。私が西谷さんを担当させていただいたので、事前に大阪の西谷さんの事務所にも足を運んでビデオの取捨選択などを行いましたが、これも見て欲しいのに、という動画をカットしていくのはつらい作業でした。
     しかし、結果として、駆け足ではありましたが、映像と報告で40分きっちり、しっかりとイラク戦争を振り返り、現在のシリア、イラク情勢にまでつなげていただきました。
     映像は、戦争で傷ついた子どもたちの姿が伝えられ、目を覆いたくなるようなものでしたが、私たちはこういった事実を直視して考えていかねばならないのだ、と思いながら、映像を胸に刻みました。
     西谷さんの報告では、映像を軸にこの間の流れと、現在の深刻な状況についてリアルに掴むことが出来ました。
     そして、終盤、「ドイツ平和村」のことが取り上げられました。ドイツ平和村は、アフガニスタンなどで、戦争の被害に遭った子どもたちをドイツに招き、治療をしていく取組で、ベトナム戦争の時からずっとドイツで取り組まれているものです。その資金の多くが日本の市民からの寄付だということも伝えられました。その報道のタイトルは、「絶望から希望へ」。まさに、希望を持てる取組だと思いました。
     憲法9条を持つ私たち日本人こそ、こういった取組を積極的にしていくことが求められているのではないか、と考えさせられました。
     シンポジウム終了後のアンケート集約を見たのですが、西谷さんの報告の評判が良く、「この報告を見るために来た」とか「大変深刻な現状がよく分かった」「西谷さんの報告が最も良かった」などという回答が寄せられました。
     やはり、事実を伝えていくことの重要性を感じました。


    (4) 第5部は、岸井さんに加え、山田博文さん(群馬大学名誉教授)、植野妙実子さん(中央大学教授)、奥本京子さん(大阪女学院大学教授)によるパネルディスカッション「安保法制によって国民生活はどう変わるか」でした。
     経済学者の山田さんからは、武器輸出のマーケットは世界で170兆円であり、そこに手を出し、日本の軍需産業を「成長産業」としていこうとしている、そのために、ことさら中国の脅威を煽る、という構図が作られているという指摘があり、この方向で行けば、日本経済は滅びる、と指摘されました。
     奥本さんからは、構造的暴力、文化的暴力の点からの言及があり、植野さんからは、大学に膨大な予算がつけられた軍事研究の拡大が進んでおり、基礎研究がおろそかになっていることなどの指摘がありました。
     最後に、山田さんから、「日本丸の運転手を変える。それしかない」という指摘があり、同時に、私たち法曹の役割に期待されるご発言があり、身の引き締まる思いでした。

  3.  第1分科会の参加者は636人でした。
     企画内容として、今後の弁護士会の運動の展望につながる内容だったのか、いろいろ思うところはありますが、結果的には多くの方にご参加いただいたので、その点は良かったと思っています。ご参加いただいたみなさんありがとうございました。