紛争解決センターだより
国際家事ADR(ハーグ条約事案)がスタートしました
紛争解決センター運営委員会 委員
増 田 卓 司
1 国際家事ADRとは
平成26年4月1日、「国際的な子の奪取の民事上の側面に関する条約」(ハーグ条約)が発効し、「国際的な子の奪取の民事上の側面に関する条約の実施に関する法律」(ハーグ条約実施法)に基づく運用が開始されました。
ハーグ条約及び同実施法は、裁判手続による子の返還とともに、中央当局(外務省)が当事者間の任意の話合いによる解決促進のために必要な措置をとることを定め、後者につき、当事者間の話合いをあっせんする者(ADR機関)と委託契約を締結し、返還または面会交流の援助決定を受けた者に対し、これらADR機関を紹介することとしています。
2 外務省との委託契約
外務省は、一昨年、実施のためのパイロット事業を東京三弁護士会、総合紛争解決センター(大阪)、沖縄弁護士会で実施し、平成26年度、上記各機関と委託契約を締結し、運用を開始しました。当センターは、昨年8月外務省からスポット的に事案の処理を打診されたことを契機に実施体制を整備し、平成27年度、外務省と委託契約を締結しました。全国の実施ADR機関は6機関になりました。
3 国際家事ADRの特徴
ハーグ事案は、@当事者の一方が外国在住であるなど遠隔地間の話合いとなる、A一方当事者は外国籍である場合が多く外国語による対応を要する、B申立書や答弁書、証拠も外国語のものが含まれ、その読解や翻訳を要する、C日本法に加え、外国の法制度も関係してくる、などの特徴があり、特別の取扱いが必要です。
4 当センターにおける取扱
(1) 当事者に対する情報提供−外国籍の当事者が援助決定通知とともにADR機関一覧表を受け取った時点で、早期に当センターの概要を把握できるよう、HP上に英語版の概要説明書や申立書等を掲載する予定です。外国語での問い合わせには、外国語に堪能な弁護士専門委員が対応します。
(2) 申立手続−申立書は、日本語または英語で作成したものとしますが、センターの判断によりその他の言語でも可能です。提出は郵送に限らずメールによる申立てもできます。
(3) あっせん・仲裁人、専門委員−事案が男女間の紛争であることから男女各1名の弁護士あっせん・仲裁人を選任し、また、外国語による手続相談や外務省との連絡調整、状況に応じて期日における通訳・翻訳業務等にあたる専門委員1名を選任します。
(4) 通訳・翻訳−必要に応じて、通訳人を付し、提出された書面を翻訳します。
(5) 期日−外国在住により出席が困難な場合等、あっせん人が相当と認める場合は、インターネットテレビ会議システム(スカイプ)や電話による参加が可能です。
時差の関係がありますが、平日の昼間(日本時間)開催が原則です。
(6) 和解成立−和解契約書または和解書を日本語で作成し、英語の訳文を添付します。
(7) 費用−申立手数料、成立手数料、通訳・翻訳費用は、原則として外務省の委託費によって支払われ、当事者負担はありません。しかし、返還・面会交流以外(ex養育費)について合意したとき、この部分の成立手数料は当事者負担です。
5 今後について
当センターにとって、国際間のADRは初めての経験です。実際に運用する中で見えてくる課題もあるかと思いますが、使いやすい制度にしていきたいと思います。また、新たに、渉外取引事案をADRで解決する為の体制整備についても取組みをはじめました。当センターのより一層の利用をお願い致します。