会報「SOPHIA」 平成27年4月号より

安保法制の勉強会開催

〜立憲主義の危機ですよ!
 ここで踏ん張らないときっと皆後悔する!〜

憲法問題委員会 委員
杉 浦 宇 子

1 安保法制の勉強会

4月20日、広島弁護士会の井上正信弁護士を講師に招いて、海外派兵・集団的自衛権を巡る法制を学ぶ勉強会が開催されました

ご承知のとおり、安倍内閣は、昨年7月1日に集団的自衛権行使を容認する閣議決定(以下『7.1閣議決定』という)を行い、今夏いよいよ『7.1閣議決定』を実現する法改正を遂げようとしています。

当委員会では、昨年度から『7.1閣議決定』に反対しその撤回を求める活動を続けてきており、今年度もこれを継続すべく企画を立てていますが、それに先立ち、これから問題となるけれど一般にはほとんどなじみのない安保法制の改正問題について、一度は勉強しておく必要があるということになりこの勉強会開催に至りました。


はじめに(立憲主義の確認)

立憲主義は憲法の基本理念であり、国家権力は憲法による制限に服さなければならない。また、憲法の恒久平和主義は、政府の安全保障政策を規範的に統制する統治原理である。従って、安全保障政策は政府の専権に任される政治問題ではなく、優れて憲法問題である。更に、平和的生存権は裁判規範であり(2008年4月27日名古屋高裁判決)、安全保障政策は平和的生存権を侵すものであってはならない。集団的自衛権行使を容認することは立憲主義と恒久平和主義に反するのであり、日弁連もその立場から閣議決定撤回を求め、それに基づく安保法制の改定にも反対している。


現行安全保障法制の仕組み−安保法制改正を理解する基礎知識

現行安保法制の基本原則は、当然のことながら、個別的自衛権の法制となっており、憲法第9条の政府解釈(自衛権発動の三要件:@我が国に対する武力攻撃が発生、Aこれを排除するに他に適当な手段がない、B必要最小限の実力行使であること)を前提に、
 ・我が国に対する武力攻撃に対処するための個別的自衛権行使に限定した武力行使
 ・個別的自衛権行使以外の場面での武力行使の禁止(武器使用に限定)
を原則とし、これを踏み外さないための歯止めが各法令に規定されている。

講師が挙げた具体例は割愛するが、現行安保法制において「武力行使」ができる場合は、自衛隊法と武力攻撃事態法に定められるのみで、それ以外の法律は「武器使用」が規定されるに止まり、武力による威嚇又は武力の行使に当たるものであってはならないことがいちいち規定されているとのことであった。

周辺事態法、PKO協力法、イラク特措法等安保法制に関わる法律は、制定当時憲法に抵触するとの指摘をされていたが、現行法は、憲法第9条の政府解釈に反しないよう歯止めの文言が一応規定されて成立している。


『7.1閣議決定』は何を決めたのか

1 武力攻撃に至らないグレーゾーン事態への対処を迅速に行うとともに、自衛隊の武器等の防護のための武器使用を認めた自衛隊法第95条を米軍の武器等の防護のために適用できるようにする。

2 国際的な平和協力活動については、「後方地域」「非戦闘地域」の枠をなくし、従来の戦闘地域でも「現に戦闘行為を行っている現場」以外の場所での後方支援を可能にするとともに、国連平和維持活動(PKO活動)について、いわゆる「駆け付け警護」を認め、任務遂行に対する妨害を排除するための武器使用を認める。

3 わが国と密接な関係にある他国に対する武力行使であっても、それがわが国の存立を脅かし、国民の生命、自由、幸福追求の権利を根柢から覆す明白な危険がある場合には自衛権の行使を容認する。


安保法制の改正

地球上のどの地域で発生した事態でも(グローバルに)自衛隊を派遣する。それぞれの安全保障法制が重層的に重なり合いながら、あらゆる事態に「切れ目なく」自衛隊を派遣する法制となっている(詳細は、割愛)。


政府与党の立法事実論批判

閣議決定は、「グローバルなパワーバランスの変化」「技術革新の急速な進展」「大量破壊兵器や弾道ミサイルの開発及び拡散」「国際テロなどの脅威」を挙げて日米同盟の抑止力の強化・集団的自衛権行使の必要性を説く。

しかし、「技術革新の急速な進展」「大量破壊兵器や弾道ミサイルの開発及び拡散」「国際テロなどの脅威」は、「新しい脅威」と定義され、その特徴は、抑止が必ずしも効かないことである。安保法制改正で日米同盟の抑止力を強化しても効果はない。

また、中国の軍事的台頭を指すであろう「グローバルなパワーバランスの変化」は、国際政治上避けられない現象であり、個別的自衛権の問題であって、外交努力で衝突を避ける以外に道はない。


自衛隊員の棺がいくつも送られてくる国になるかどうかの選択

講師は、元防衛省防衛研究所長・元内閣官房副長官補(安全保障・危機管理担当)の柳澤協二さんが、「安倍内閣が目指す安保法制が成立したら、任務を担う自衛隊員の安全は守れない。自衛隊員の棺がいくつも送られてくる国になる」と言われた話を紹介し、戦死者が出たとき、ナショナリズムが燃え上がって一気に軍隊をつくろうという方向にならないかとても案じていると話された。

この話を聞いた多くの委員が、戦後今まで一人の戦死者も出していない国から、戦争で国民が殺され、他国民を殺すことを良しとするような国になる前に、今回の安保法制改正を止めなければという思いを強くしたことだろう。


2 集団的自衛権行使のための法整備に反対する愛知大集会パレード 6.14開催

日弁連と本会を含む全国の単位会は、これまでも、『7.1閣議決定』の撤回を求める活動を精力的に行っている。その結果、『7.1閣議決定』の危険性への認識は徐々に広がっている(この原稿を書いている時点で、共同通信社の世論調査において、日米ガイドラインについて反対47.9%が賛成35.5%を上回る結果が出ている)。しかし、未だ全国的に『7.1閣議決定』を撤回させるまでには至っていない現状で、活動の手を緩めることはできない。

当会では、来る6月14日(日)午前10時から、白川公園において、集団的自衛権行使のための法整備に反対する愛知大集会パレードを開催します。

再三民意無視と指摘されている安倍内閣が無視できないくらい大きな声をつくる原動力に少しでもなれるよう、大勢の市民の皆さんの参加を呼びかけます。

そして、1.17集会の350名参加を超えるより多くの会員の参加をお願いします。

現在・未来の子どもたちに再び戦争の惨禍が及ばないようにするために、立憲主義を守るために、一緒に声を挙げましょう!