会報「SOPHIA」 平成27年3月号より


子どもの事件の現場から(141)

蕾から一気に花開く



会員 山 谷 奈津子


私はある施設で、1人の少女と出会いました。彼女は、親から虐待を受けて児童相談所に保護され、小さい頃から施設と家庭を行ったり来たりする生活をしていました。初めて会ったとき、彼女はこたつの中で寝そべり、テレビの前に陣取って、ずーっとテレビの画面を見続けていたことを思い出します。

彼女は、自立を目指すためにNPO法人子どもセンター「パオ」の自立援助ホームぴあ・かもみーるで生活をはじめました。私は、多田元会員とともに、彼女のパートナー弁護士として、彼女を継続的に支援していくことになりました。

ぴあ・かもみーるで生活をはじめた彼女は、やはりずーっとテレビ三昧。そして、これも虐待の影響かと思いますが、ふとしたきっかけで体が固まってしまい、その場から動けなくなってしまいます。話しかけても、反応なし。テレビの前で固まること何時間か…。周りの大人はどうすることもできませんでした(あまりの固まりに、藤原鎌足ならぬ藤原かたまりと言って彼女を怒らせたことも…)。

仕事をはじめることになった彼女ですが、朝起きられず、遅刻・欠席を繰り返すことになってしまいます。自分の部屋で固まって動けなくなってしまうことも度々ありました。それでもぴあ・かもみーるのスタッフは、毎日毎日彼女を起こし、仕事に行くように励まし、元気づけました。

少しずつ仕事も軌道に乗ってきて、自立への道筋もできてきたことから、次のステップへ進むため、今度は他県の自立援助ホームで生活することになりました。

しかし、そこでも例の固まりが発生。職場の方、自立援助ホームのスタッフが何度もインターホンを鳴らし、携帯に電話をかけても、起きようとせず、働けない期間が続きました。

そんな彼女が変わったのは、働かないことで貯金が減りはじめ、自立援助ホームの利用料が支払えなくなり、退去をせまられることになったときでした。ここで見捨てられたら後がないと感じたそうです。自分を心配してくれる人がいる、ぴあ・かもみーるや今生活している自立援助ホームのスタッフが彼女を応援している気持ちを彼女なりに感じていたのだと思います。

そこからの彼女の快進撃は素晴らしいものでした。職場の上司の方に「あんたはできる子や」と褒められるまでになりました。小さい頃から虐待を受け、否定され続けてきた彼女は、今まで褒められることはありませんでした。そんな彼女が褒められて、どんどん伸びていきました。ずっと固く閉ざされた蕾が一気に開花したかのようでした。

彼女は、自立援助ホームの中でも一番の稼ぎ頭となり、貯金を貯め、ついには1人暮らしをはじめました。

以下は、彼女が自分が受けてきた虐待を振り返って語った言葉です。

「すごいよね。あれだけ虐待されて生きてるんだから」「虐待がなかったら今の環境に恵まれていない」「過去を振り返ってもしょうがない。過去は変わらないから」

今年、成人式を迎えた彼女。振り袖姿に身を包み、職場の方に囲まれた彼女の写真が送られてきました。どこへ行っても周りの人に恵まれる彼女。それが彼女の力なんだと思います。

これからどんな花を咲かせてくれるか楽しみです。いつまでも応援してるよ!