会報「SOPHIA」 平成27年1月号より

国際委員会
韓国司法修習生の受入れ
〜消えゆく最後の修習世代〜

国際委員会 委員長
小 川 晶 露

平成26年10月14日から11月14日までの4週間、大韓民国(「韓国」)の司法修習生4名を受け入れ、愛知県での司法修習を行ったので、ご報告いたします。

この受入れは、韓国の最高裁判所司法研修院から要請を受けて、日弁連にて4名の韓国司法修習生を受け入れて修習を行うことになったものです。これら4名は、ビジネスではなく、法整備支援等の国際司法支援や人権擁護活動を研修したいとの希望であったため、東京や大阪の弁護士会ではなく、JICA専門家協力や人権擁護活動を活発に行う愛知県弁護士会が適切であろうとの話になり、日弁連から要請を受けて、当会が協力母体として受け入れました。

韓国の司法改革も激動期にあり、従来は、日本国の旧司法試験制度と同様の制度をとっており、1980年頃までは年間300人程度しか合格しない超難関の国家試験でしたが、その後徐々に増員され、2009年3月からは法学専門大学院(ロースクール)を設置し、他方で、旧司法試験合格者は徐々に減少され、2017年度を最後に、旧司法試験と司法修習制度は完全に消滅するとのことです。

日本国との大きな違いは、旧司法試験合格⇒司法研修院というルートが全廃されること、その替わりに、法学専門大学院(ロースクール)を卒業する必要があること、この卒業者は司法修習することなく直ちに弁護士登録ないし検察官に任官すること、その後、弁護士や検察官の中から然るべき実務経験を経た者が裁判官に任官すること、他方で、法学専門大学院設置大学では法学部の設置を基本的に認めないこと、以上のような新しい法曹養成制度をとっており、法学部・法科大学院・司法試験・司法修習がすべて継続する我が国の新法曹養成制度とは、かなり様相を異にします。

さて、今回の韓国司法研修院の司法修習生は、前記のとおり、消えゆく韓国旧司法試験制度における最後の世代であり、その合格率も1%未満になります(その替わり、就職では、かなり優遇される模様です)。

そして、韓国司法研修院では、給料を貰いながら修習期間中の一定時期を、司法研修院が認める国際機関等に限って、海外で研修を行い国内弁護修習に代替することを認めています。研修受入先は、国連ジュネーブ事務局、世界銀行、国際司法裁判所(ECCC等)、国際労働機関(ILO)など名だたる国際機関が多岐にわたり、毎年、多くの司法修習生が海外研修を行いますが、今般、日本国でも、日弁連で初めて司法修習生を受け入れました。

愛知県下での修習内容としては、日弁連が選定する愛知県下の4つの法律事務所を拠点として各弁護修習を行い、これに加えて、当会、国際協力機構(JICA)、法テラス、名古屋大学(以下、「名大」)等から個別の協力を得るという体制が敷かれました。

具体的には、当会では当委員会が中心となり、当委員会や国際人権部会を傍聴し、当委員会主催の名大特別講義「日本の司法機関」〔英語〕や検察庁訪問、中国法セミナー、JICA本邦研修(イラン国)、韓国光州地方弁護士会の公式訪問(晩餐会と共同セミナー)等に積極的に参加いただきました。

法テラス研修では、ガイダンスに始まり、所長・副所長との懇談会、スタッフ弁護士による講義と扶助法律相談の立会い、刑事国選事件傍聴と裁判官レクチャー、破産免責審尋立会い等の多様な研修機会を得ました。

JICAは中部と本部(東京四谷)の何れにも訪問して、本部では磯井美葉専門員から講義を受け、支援国本邦研修の研修会議に参加させていただいたりして、法整備支援の生の実態を見聞する貴重な機会を得ました。

名大では、法政国際教育協力研究センター(CALE)の協力を得て、教授会の承認をいただき、鮎京正訓教授の大学院講義「法整備支援論」に参加したり、同大学の姜東局教授から直接指導を受けて、ミニシンポジウム「JICAとKOICAの比較と協働可能性」で日本語による発表機会や他発表者との間で意見交換を行ったりもしました。

当会にて受入協力する以上は、日弁連と韓国司法研修院に胸を張れるよう、日本国の司法修習生と径庭ない水準のプログラムを組みました。当初は、これだけ中身の濃い修習を、しかも彼らにとって外国語である日本語で果たして消化できるか不安もありましたが、実際に修習させてみると、この4名の日本語力の高さには、ただただ驚愕するばかりであり(因みに、英語も話します)、修習に取り組む謙虚さや能力の高さ、吸収力と柔軟性、何よりも、彼らの人柄とキャラクターなのか、何処に行っても歓迎していただけたのは、誠に幸運なことでした。

内外のアレンジは筆舌に尽くし難い苦労や疲弊もありましたが、皆さまの温かいご協力とエールに支えられ、何とか終わってみれば、あっと言う間の4週間でした。

最後に、名大の鮎京正訓・小畑郁・姜東局各教授、JICAの磯井美葉弁護士・川淵貴代様、法テラスの田中清隆会員・長谷川龍伸会員、受入事務所として鮎澤多俊・田邊正紀・中川真吾各委員、執行部の花井増實会長、岡嗣人・榎本修各副会長、その他多くの皆様から多大なご支援・ご協力をいただきましたこと、ここに謹んで御礼申し上げます。


韓国司法修習生 黄  成 連

日弁連およびJICAによる法整備支援を勉強したく愛知を訪ね、破産者、障がい者、国際難民などの社会的弱者を守る弁護士魂を学ばせていただきました。改めて、法整備支援は人を守るという弁護士の仕事が国際的なスケールで進化したものである事に気づきました。ご指導下さいました愛知県弁護士会の皆様に心より感謝致します。


韓国司法修習生 尹  珍 皓

愛知県弁護士会国際委員会の活発な活動に感動しました。そして私達への暖かいご配慮に本当に感謝申し上げます。絶対忘れません。日韓友好増進に寄与する韓国弁護士になります。


韓国司法修習生 李  周 映

優秀な日本の法制度および弁護士の能力を学べる機会でした。修習期間中の日程がかなり厳しくて大変でしたが、それほど充実しており、実質的に成長する事が出来た修習でした。私の人生で掛け替えのない大切な機会を下さいました愛知県弁護士会と日弁連に心より厚くお礼を申し上げます。


韓国司法修習生 金  佳 慧

掛け替えのない貴重な経験でした。私達を後輩法曹のように暖かく迎えてくれた愛知県弁護士会の皆様には本当に感銘を受けました。その心を忘れず、私もいつか誰かに同じく恩返ししたいです。