会報「SOPHIA」 平成26年12月号より

犯罪被害者支援連載シリーズ
・・・北欧には被害者庁があるらしい
[スウェーデン編]〜日弁連北欧調査旅行報告(3)


日弁連犯罪被害者支援委員会 委員
長谷川 桂 子

■先回はノルウェーの暴力犯罪補償庁と回収庁について報告した。今回はスウェーデンにおける類似の官庁である犯罪被害者庁(Brottsoffermyndigheten)(写真は被害者庁の入居する建物)と、強制執行庁(Kronofogden)について報告したい。


■犯罪被害者庁は首都ストックホルムから北約600qに位置するウメオ市にある。同市は人口の半数以上を学生と大学のスタッフが占めるという大学都市であり、また、今年はEUの欧州文化首都2014として、先住民族であるサーミ人の伝統文化や環境問題をはじめ、様々な文化事業を発信してきたということであった。


■さて、スウェーデンでは古く1948年から犯罪被害者に対する被害者補助金の制度があった。1994年に、それまで司法省が取り扱っていた補償その他の犯罪被害者に関する事項を取り扱う独立の官庁として犯罪被害者庁が設立された。@国から犯罪被害者への補償金の支払い、A犯罪被害者基金の管理、B犯罪被害者に関する情報の収集・伝達、C加害者に対する求償を行っている。同庁では被害者への補償に深い関わりを持つ強制執行庁の職員にもお越しいただき説明を受けた。


■補償について〜スウェーデンでは、生命身体や性的自由に対する犯罪の被害者に対して国からの補償制度がある。直接の被害者ではないが、家族間の暴力を目撃した子どもも補償を受けることができることにも特徴がある。

国からの補償は、加害者からの賠償、民間保険からの補償を補う位置づけであり、損害回復は第一義的には加害者からの損害賠償金回収によるべきというのが大原則となっている。これを徹底するユニークな制度が強制執行庁による回収の制度である。

強制執行庁は、財務省の管轄下に置かれ、税金や民事債権の回収や破産、倒産事件、国民への経済的破綻防止の啓蒙活動などを行っている、日本にはない官庁である。説明を伺った限り、裁判所の執行部、破産部のような機能が、裁判所ではなく行政官庁で行われているというイメージであった。庁として債権者と債務者の公平、バランスを重視しており、その象徴として庁名の入った水準器(写真)のキーホルダーをおみやげにいただいた。

スウェーデンには付帯私訴制度があり、犯罪被害者は、刑事裁判と並行して民事の損害賠償判決を得ることができるが(申立は必要)、判決が確定すると、裁判所から強制執行庁へ判決書が自動的に送付され、これを受けた強制執行庁は、犯罪被害者へ、加害者からの損害賠償金の回収に強制執行庁の援助を希望するか尋ねる手紙を送る(写真)。希望する場合は同封の申請書(写真)を提出しなければならない。

申請があると強制執行庁が回収に乗り出すこととなる。犯罪被害者が強制執行庁の援助を受けるのに費用はかからない。

強制執行庁はまず加害者の経済的能力の調査を行う。スウェーデンもノルウェー同様背番号制が採られており、強制執行庁は加害者の銀行口座や車両記録等を見ることができる。経済力があると判明すれば加害者と面談するなどして支払いを促し(分割もあり)、任意の支払いをしない場合は強制執行を行うことになる。但し、加害者には生活のため一定範囲の財産を残す権利はあるとのことであった。財産があるにもかかわらず任意の支払いをしない場合、その旨強制執行庁に記録が残り国民に開示されてしまうため、強制執行まで至ることは稀であるとのことである。

加害者に経済力がない場合には、強制執行庁は犯罪被害者へ加害者の経済的能力がない旨の報告書を送る。犯罪被害者は次の補償手段である民間保険会社への補償請求、それでも補償を受けられない場合は被害者庁への補償請求に進むことになる。 

■犯罪被害者基金について〜スウェーデンでは、犯罪被害者のための活動をしている組織への補助を目的とする犯罪被害者基金が設けられており、年間約3000万クローナ(約4億5900万円)が組み入れられている。法定刑に刑務所刑がある犯罪で有罪判決を受けた人は500クローナ(約7650円)を、社会内処遇として電子監視装置を装着している人は最高6000クローナ(約9万1800円)を基金に支払うこととなっており、これが主な財源である。被害者庁はこの基金の管理をしており、年2回の申請を受け補助金を支給している。約70%が非営利の民間団体へ、約30%が研究機関へ支給されているとのことである。

例えば傘下に100の支部を持つスウェーデン最大の犯罪被害者支援団体であるBOJの全国連盟には年間700万クローナ(約1億710万円)が支給されている。その他にも約100団体へ合計約1200〜1400万クローナが支給されているということであった。

調査では犯罪被害者学の中心的存在であるウメオ大学社会学部法学研究科(写真)を訪問したが、同大学もこれまでに基金からの補助金を受給しており、一般の学術研究補助金の他に犯罪被害者研究に特化した補助金があることを積極的に評価していた。

当会の犯罪被害者委員会で2011年に訪問した韓国でも罰金の4%を組み入れる基金があり、犯罪被害者支援活動への補助金の財源となっていた。犯罪被害者支援の充実の議論ではしばしば財源が問題となるが、類似の制度が日本でも考えられると良いと思う。