会報「SOPHIA」 平成26年11月号より

子どもの事件の現場から(137)
未成年後見人


会員 高 橋 直 紹

もう7年も前のことです。彼女は、小学1年生の時にお父さんが再婚したのですが、新しいお母さんとは養子縁組されませんでした。小学5年生の時にお父さんが亡くなると、継母は彼女の面倒を見ることができないと児童相談所に相談し、彼女は養護施設に預けられました。お父さんの遺産分割協議、今後の財産管理の必要性から、児童相談所が申立を行い、私が未成年後見人に就任しました。

施設で初めて顔を合わせた12歳の彼女は、とても人なつっこい子でした。施設では、週末に親御さんなどと外出する子も多いことから、私も長期休暇などには一緒に外出してお昼ご飯を食べ、ショッピングを楽しんだりしました。中学校に入り携帯電話を持つようになってからは、毎日のようにメールで日々の様子を伝えてくれました。矢野きよ美さんの息子さんの作品展を見に行った際に矢野さんが彼女と一緒に写ってくれた写真は私の携帯電話の中に残っています(矢野さんは今でも彼女を覚えてくれているとのことです)。

遺産分割協議も何とか無事解決しました。未成年者が持つにはちょっと大きなお金をお父さんは彼女のために残してくれました。

中学3年生くらいになった頃から、施設や学校での生活が荒れ始めました。それと合わせるかのように、私にもなかなか会ってくれなくなりました。

中学校卒業後彼女は自立援助ホーム(養護施設出身の子などいきなり一人暮らしが難しい子どもの自立を支援する施設)に入りました。しかし、仕事は長続きせず、1年も経たずにホームを飛び出し、交際男性と一緒に暮らすようになりました。

生活が荒れるにつれて、私が管理する遺産を渡すよう要求が強くなっていきました。色々理由を付けて無心してくるのです。無駄な使い方は認められないと言うと、彼女もだんだんエキサイトし、「なんで、おまえが私の金を持ってるんだ!」「金を返せ!」「どろぼー!」などと罵ることもありました。

余りに激しく罵られたとき、私は思い余って、「このお金は確かにあなたのお金だ。大切なあなたのために、本当に必要なときに使うためお父さんが残してくれたお金なんだ。私はお父さんの気持ちを大事にしたい。だから、簡単にあなたの要求に応じることはできない」と怒鳴り返したこともありました。無言のあと電話は切れました。このまま、私が未成年後見人を続けていていいのかと悩んだ時期でもありました。

暫く連絡が取れない期間もありましたが、その後彼女の生活も落ち着いてきたのか、日々の生活の中でどうしても足らないときにだけ必要最小限のお金が欲しいと連絡してくるようになりました。前のように仲睦まじくという関係からはほど遠かったのですが、それでも、日々の暮らしの報告や悩み事の相談をしてくれるようにもなったりしました。

先日、19歳で長年交際した彼氏と婚姻し、私の未成年後見人としての仕事は終わりました。遺産を引き渡すとき、彼女は、「パパが遺してくれた大切なお金だもん。無駄には使わないよ」と話していました。

数日後、彼女が行ったイベントに矢野さんが出られていたそうで、「私のこと、覚えているかなぁ」というメールが届きました。

役立たずの未成年後見人でしたが、ただただ彼女が穏やかな日々を送ってくれることを祈るばかりです。