会報「SOPHIA」 平成26年10月号より

子どもの事件の現場から(136)
あの澄んだ表情が忘れられない


子どもの権利委員会
委 員
平 塚 恵理佳

A君の非行事実は、強盗や集団暴行など全部で9件。私が被疑者国選弁護人に就任したときには、既に別の強盗事件等の審判を終えて、少年院に行っていました。

どれだけ荒れた子だろうかと、おそるおそる接見に出向いた私の予想に反して、A君は笑顔の似合う人懐っこい子でした。目の前のA君と、強盗を含む凶悪な犯行がつながりません。どうやら、前件での出来事がA君の気持ちに変化をもたらしていたようです。

A君は、前件の強盗事件を起こしたとき、さすがに両親に捨てられると思っていました。ところが、両親は変わらず面会に来てくれ、「話すことから更生がはじまるから、ちゃんと話しなさい」と言ってくれたそうです。その言葉を聞いて、A君は、露呈していなかった今回の事件について、自発的に話したそうです。

このような経緯のため、私が担当したときには、既にA君自身が、どうすれば更生できるかを自分で考えるようになっていました。その変化は顔にも表れており、2度目の鑑別所では顔つきが変わったと声をかけてもらい、後日私が、非行をしていた当時の面割り写真を見たとき、今の穏やかなA君とは顔つきが全く違ったので、気づけなかったほどです。

ただ、初めて会ったときに、A君が「一番になれるものがない。自信が持てない」と言っていたことが気になっていました。非行をすることで称賛され、ゆがんだ自信を持ったことが、非行に手を染めた根本の原因でした。

一番でなくてもいい、今のままで十分に自信を持っていいということを伝えようとするのですが、なかなかA君の心には届きません。会うたびに、非行についての話もしましたが、勉強を続けていてすごいね、絵が上手だねと、感心すること、才能があると思ったことは、特に意識して伝えました。

審判の前日、「被害にあった人の気持ちをどう思うか?」など、審判でする予定の質問をしました。すると、A君から「今日聞いてもらって、改めて被害者の方のことをきちんと考えました。聞いてもらってよかったです」と言われました。また、一番になれるものがないという点については、「もう気にしない。調査官から、自分の生き方を誇りに思って生きればいいということを教えてもらいました」と言っていました。A君は、できれば信頼している先生のいる元の少年院に戻りたいが、非行が凶悪なので、どんな処分も覚悟していると言って、翌日の審判に臨みました。

審判の日、審判廷で、背筋を伸ばして、裁判官が入ってくるドアを真っ直ぐに見据え、どんな処分でも受ける覚悟を決めた彼の顔を見て、人はこんなにも澄んだ表情をするのだと、私は思わず見入ってしまいました。

裁判官は、A君がなぜ非行に手を染めたのか、経緯も気持ちも、とても丁寧に聞き取ってくれました。A君はどんな結果になってもくさらずにやろうと思うと決意を述べました。

ご両親からは、可愛い息子であることにかわりないこと、これから一緒に痛みを感じて生きていくという言葉をかけてもらいました。

審判の結果、以前と同じ少年院に行くことになりました。今も頑張っているそうです。

少年法は厳罰化がうたわれますが、A君のあの澄んだ表情を思い出すたび、可塑性のある少年に、早期の社会復帰の機会を用意することの大切さを思います。