会報「SOPHIA」 平成26年10月号より

「北の大地から考える、放射能汚染のない未来へ
−原発事故と司法の責任、核のゴミの後始末、
そして脱原発後の地域再生へ−」開催される


人権擁護大会シンポジウム第1分科会実行委員
公害対策・環境保全委員会 委員

藤 川 誠 二

1 はじめに

10月2日に函館市において、標記シンポジウムが開催された。第1分科会では、昨年に引き続き脱原発問題が取り上げられた。福島原発事故後3年半が経過したが、いまだ汚染水や廃炉問題、何よりも10万人以上の住民が避難生活を続けるなど事故収束には程遠い状況にある。そのような状況の中で、人権擁護大会としては異例ともいえる2年続けて同じテーマ(原発問題)を取り上げることの重要性を認識していただければと思う。

函館市は、今年4月、自治体としては初めての原発の設置許可無効確認等の訴訟を提起しており、市民の関心も高いものであった。シンポジウム参加者は1072名にも達し、会場はほぼ満席の状態であった。3部構成をとり6時間半の長時間にわたり開催された第1分科会の様子を、以下お伝えする。


2 第1部「司法の責任を考える」

(1)これまで全国各地の原発において、設置許可無効確認や差止等の裁判が多数行われてきた。しかし、一部の下級審判決を除き、原告側勝訴で終了した訴訟はなかった。すなわち、司法は原発が安全であると判断し続けていた。第1部で司法の責任を取り上げた理由は、福島原発事故を止めることができなかった一因には、国の主張をそのまま認め、原発は安全であると判断し続けてきた司法にもその責任があるという反省のもとにであった。

(2)まず、シンポジウム実行委員の岩淵正明委員から日弁連の基調報告として「原発差止訴訟のあるべき新たな判断枠組みについて」と題する報告がされた。福島原発事故により原発の安全性が否定されたことを受けて、原発にはより高度の安全性が求められること、安全性に関する技術的論争では合理的な少数説も判断対象にすべきであること等の指摘があった。そして、事故後の裁判所の動き等に触れつつ、求められる司法判断の枠組みとして、立証命題の再構築や証明度の軽減等の提案があった。

(3)基調報告に引き続きパネルディスカッションが行われた。パネリストは、早稲田大学法学部教授の首藤重幸氏、記者の山口栄二氏、岩淵委員、中村多美子委員、コーディネーターは海渡雄一委員と中野宏典委員であった。首藤氏からは、伊方原発最高裁判決やこれまでの原発訴訟の問題点、ドイツの原発裁判の考え方等について発言があった。山口氏からは、福島原発事故後にこれまで原発裁判を担当した裁判官15名近くにインタビューしたことや裁判官の意識も変化していること等について、岩淵委員からは、裁判における原発の安全性について従来の相対的安全性ではなく絶対的安全性まで必要とされるのではないか等の指摘があった。中村委員からは、原発に限らず、裁判における科学的判断の在り方について、自身の研究内容も踏まえて発言があった。また、海渡委員からは、3.11後、裁判所の対応も変わりつつあると感じているとの発言もあった。パネルディスカッションは1時間以上にわたり行われたが、実行委員によるドイツ調査報告などもあり、それぞれの立場から貴重な発言があった。


3 第2部「核燃料サイクル、高レベル放射性廃棄物を考える」

(1)第2部では、いまだに政府が固執している核燃料サイクル、特に原発から排出される使用済燃料の再処理に関する問題、原発をやめたとしても残る高レベル放射性廃棄物の処分問題を取り上げた。  まず、札幌で開催されたプレシンポジウムの報告がされた。それに続き、「核燃料サイクルからの撤退」をテーマに、京都大学の小出裕章氏と浅石絋爾委員(聞き手)の対談が行われた。再処理とは、使用済燃料から核分裂生成物、燃え残りのウラン、プルトニウムを分離する作業である。小出氏からは、核燃料サイクルの要である高速増殖炉計画が、10年経つと20年先の計画に変更されるなど既に破綻していること、そのような現実性のない計画に既に1兆円もの大金がつぎ込まれているが誰も責任をとっていないこと、日本には使用済燃料から長崎原爆3500発分以上のプルトニウムが分離され存在すること、プルトニウムがウランと比べても猛毒物質であること等が説明された。会場からは時折拍手が沸き起こるなど、関心の高さがうかがわれた。

(2)引き続き、小野有五北星学園大学教授が登壇し、「核のゴミについて考える〜日本における高レベル放射性廃棄物処分問題〜」とする対談が行われた(なお、聞き手は私が務めた)。小野氏からは、原発から出る高レベル放射性廃棄物は10万年近く人間の生活環境から隔離しなければならないこと、4つのプレートの境界にあり世界でも最も地震が多発し地殻変動が活発な変動帯に位置する日本において、そもそも原発を作ること自体が問題であること、政府は日本に高レベル放射性廃棄物を地層処分する場所が広く存在するというが、そのようには言えないこと等が説明された。そして、処分方法が極めて困難な廃棄物を生み出す原発は即刻廃止すべきであること等の発言があった。


4 第3部「原発等立地地域の経済と再生可能エネルギー等を通じた地域再生を考える」

(1)第3部では、はじめに実行委員による青森調査報告(大間原発、六ヶ所再処理工場等の見学)とドイツ調査報告としてビブリス町の原発廃炉後の取組について報告があった。

(2)その後、茨城県東海村の元村長である村上達也氏から「脱原発と地方の再生」というテーマで実行委員との対談が行われた。東海村は、村の歳入の3分の1が原発関連であるなど、原発経済に依存する状況にある。そのような中で福島原発事故後、村長在任中に脱原発を宣言した経緯等について話をされた。村上氏は、3.11後の福島を見て、原発は一炊の夢どころか悪い夢であるということや勇気をもって脱原発を決意した等の話をされた。

(3)その後、地元函館市長への特別インタビューが行われた。工藤壽樹市長は、脱原発といった主義主張ではなく、市民の生命や生活を守るために自治体として初めて原発差止等の訴訟を提起した経緯や、大間原発から23kmしか離れていないため避難計画の作成義務はあるが、原発建設について意見を言うことができないことの不合理さや、市民が一斉に避難した場合には道路は駐車場になるなど、周辺自治体の抱える問題を鋭く指摘された。

(4)さらには、再生可能エネルギーの先進国であるオーストリアでの調査報告が行われ、その後、「北海道における木質バイオマスエネルギーの状況について」と題して株式会社NERC代表取締役センター長である大友詔雄氏による講演及び質疑応答が行われた。大友氏からは、自然エネルギーの中でも木質バイオマスの可能性や、地域経済への波及効果等について説明があった。


5 最後に

今年5月には、大飯原発の原告勝訴判決が出されるなど、司法分野においては確実に福島原発事故後に変化がみられる。しかし、現在の政府は福島原発事故の収束の見通しも定かでないにもかかわらず、原発推進路線を明確にしつつある。日弁連は、昨年の人権擁護大会において、即時脱原発を求める決議を採決するなど、原発問題に積極的に取り組んでいる。今後も原発関連の日弁連、当会の活動にぜひ関心を持っていただければ幸いである。