会報「SOPHIA」 平成26年10月号より

第57回日弁連人権擁護大会シンポジウム第2分科会
障害者権利条約の完全実施を求めて
−自分らしく、ともに生きる−


人権擁護大会シンポジウム第2分科会実行委員
高齢者・障害者総合支援センター運営委員会 委員
田 中 伸 明(61期)

第1 本分科会の趣旨

国際連合では、2006年(平成18年)12月13日に、21世紀初の主要人権条約として、「障害のある人の権利に関する条約」を採択し、同条約は2008年(平成20年)5月3日に発効した。日本政府は、2007年(平成19年)9月28日に同条約に署名したものの、批准せず、批准に向けた国内法整備を進めていた。この国内法整備は、内閣の下に障がい者制度改革推進本部を設置し、さらに同本部の下に障がい者制度改革推進会議を置いて、平成22年から本格的に始められた。その結果、平成23年の障害者基本法の改正に始まり、障害者総合支援法の制定と、障害者差別解消推進法の制定により、一応の節目を迎えることとなった。そこで、日本政府は、国会の承認決議を経て、平成26年1月20日、同条約を批准するに至った。  日弁連では、日本政府が同条約を批准したことに伴い、10月2日、3日に函館で開催される第57回人権大会の第2分科会において、シンポジウム「障害者権利条約の完全実施を求めて −自分らしく、ともに生きる−」を開催することとなったものである。この第2分科会は、10月2日、函館国際ホテル2階会議場で開催され、最終的な出席者は856名、シンポジウムを実況中継したユーストリームには370件余のアクセスがあり、盛況のうちに行われることとなった。私も、第2分科会実行委員として参加したことから、以下に開催報告を行う。


第2 本シンポジウムの内容

1 第1部 基調講演

本シンポジウムでは、「障害者権利条約がひらく未来」と題して、大阪大学名誉教授棟居快行氏により基調講演が行われた。同氏は、内閣府障がい者制度改革推進会議の下に設置された差別禁止部会で座長を務められ、その座長としての経験談や苦労話などをまじえて、1時間にわたり、分かりやすい講演を行って頂いた。講演は1時間という短時間であったため、障害者差別解消推進法の詳細な内容に立ち入ることはなかったが、同法が定める「差別的取扱いの禁止」と「必要かつ合理的な配慮」の提供の理念について熱い思いを語って頂いた。


2 第2部 報告

(1)ビデオメッセージ

第2部の報告では、冒頭、国際連合障害者権利委員会委員長マリア・ソリダード氏からのビデオメッセージが放映された。マリア・ソリダード氏は、チリ出身の女性で、全盲であり、弁護士としても活躍されている。同氏からは、日本が障害者権利条約を批准したことを歓迎するとともに、今後、同条約の内容が日本国内で速やかに実施されることを希望している旨が伝えられた。

(2)当事者からの現場報告

次に、北海道在住の障がいのある当事者からの現場報告が行われた。

まず、自立の風かんばすを設立した横川由紀氏からは、自ら拡声器や電動車椅子を用いながらも、自立した生活を送ることの喜びや、地域で生きることの重要性が報告された。また、桜谷雄一氏、良子氏夫妻からは、共に知的障がいを持ちながらも、お互いを支えあい自立した生活を送っていることが、楽しいエピソードを交えつつ報告された。さらに、浦河べてるの家からは、池松麻穂氏、亀井英俊氏、伊藤知之氏の3氏が報告に立ち、精神障がいとはどのようなものかについて報告がなされた。特に、亀井氏からは、常に否定的な評価を語る幻聴を克服するため、毎日「にこにこノート」と題するノートに肯定的な評価を記載し、これを日々読み直すことで、否定的な幻聴が肯定的な幻聴に変化した経験が報告された。これを、「亀井式幻聴さん改造計画」と命名していることが報告されると、会場が笑いに包まれた。


3 第3部 問題提起とパネルディスカッション

(1)寸劇 〜こんなときどうする

第3部の冒頭では、実行委員を中心として、障がいのある人が直面するであろう問題を分かりやすく伝えるため、寸劇が行われた。テーマとして取り上げられたのは、雇用、教育及び司法である。雇用については、ある会社で営業職としての職務を行っていた社員が、眼の病状の悪化により視力を失ったため解雇を言い渡されるという事例、教育では、一般学校に通う車椅子の女子生徒が修学旅行への参加を拒否される事例、司法では、知的及び発達障がいのある男性が電車内で痴漢行為を行ったとして問題となる事例が設定され、各事例について、障害者権利条約を知らない弁護士とよく知る弁護士が討論形式で意見を述べ合うという形式で行われた。


(2)パネルディスカッション

続いて、立命館大学客員教授の長瀬修氏をコーディネーターとして、以下の5名のパネリストによるパネルディスカッションが行われた。

ア DPI女性障害者ネットワーク   米津知子氏

同氏からは、主に複合差別の問題、すなわち、女性であることによる差別と、障がいを持つことによる差別が複合する差別の問題について報告され、障害者権利条約が、その6条において、障がいのある女性の権利を定めていることが説明された。

イ ピープルファースト北海道会長   土本秋夫氏

同氏からは、知的障がいのある人の立場から、障害者権利条約が定める差別とは何か(2条)について説明があり、加えて、同条約が搾取や暴力虐待の禁止(16条)、入所施設や病院で閉じ込められず地域で人間として生きる権利(19条)などを定めていることが強調された。

ウ 北海道新得町長 浜田正利氏

同氏からは、新得町では、人口6400人のうち、ろう者だけであれば200名を超える人が、施設を含め、町内で生活している現状を踏まえ、全国で町村では初となる手話条例制定(平成26年3月可決、同年4月1日施行)の経緯が報告された。

エ 神奈川大学法学部教授 山崎公士氏

同氏からは、主に、障害者権利条約33条が定める国内モニタリング機関についての説明がなされた。同氏からは、同条約33条が、中央連絡先の指定、調整のための仕組、国連パリ原則に基づいた監視の枠組み、市民社会による監視などの内容を定めていることが説明され、今後は、差別解消に向けて、地方公共団体の担う役割が大きくなることなどが説明された。

オ 京都弁護士会所属 竹下義樹氏

同氏は、自らが視覚障がい(全盲)であるという立場から、現在、内閣府障害者政策委員会委員としても活動している。同氏からは、障害者権利条約の国内における完全実施に向けて、必要となることや課題について総論的な説明がなされた。


第3 終わりに

次年度の人権大会は、平成27年10月1日(木)・2日(金)に、千葉県にて開催予定である。