会報「SOPHIA」 平成26年7月号より

死刑廃止を考える日2014
袴田事件再審開始決定から死刑冤罪を考える


人権擁護委員会 委員 
杉本 みさ紀

7月19日(土)午後1時30分より、当会館5階ホールにて、「死刑廃止を考える日2014 袴田事件再審開始決定から死刑冤罪を考える」が開催され、会員含め約60名の市民が参加した。

3月27日静岡地裁は、死刑確定者である袴田巌氏について、再審開始、死刑の執行停止と拘置の停止を決定した。死刑冤罪を通じ、死刑廃止を考える企画である。

花井増實会長の挨拶に続き、巌氏の姉、袴田ひで子氏が挨拶。「生きて出られました。大満足でございます」。巌氏は拘禁症の反応が強く残るも、穏やかに暮らしていると紹介した。


◎弁護団報告

弁護団の角替清美弁護士(静岡県弁護士会)が事件を報告。当初から巌氏を犯人と決め付けた捜査、警察発表を鵜呑みにした報道。連日長時間の拷問を伴う取調べ、不合理な自白や不自然な証拠からみた明らかな冤罪性。

そして、第2次再審ではじめて獲得された証拠。多くの支援者の「事実と違うことは、おかしい」という素朴な正義感に支えられて再審開始決定につながったと述べた。

無実が証明される日を信じ、巌氏が拘置所から家族に宛てた手紙も紹介した。


◎基調講演

一橋大学大学院葛野尋之教授が「袴田事件再審開始決定と死刑制度〜開始決定の教訓に学ぶ〜」と題し、講演を行った。

まず、無辜の救済としての再審制度の存在意義を説明。袴田事件決定の構造を、DNA鑑定や味噌漬け実験を中心に紹介。注目の拘置の執行停止について、「拘置は死刑執行の一環であり、停止は可能」などと解説した。

刑事司法改革への教訓として、例外なき取調べの録音録画、証拠開示の重要性を指摘した。死刑事件の誤判の可能性を直視し、第1に、死刑廃止、第2に、死刑執行停止と誤判原因の徹底調査(アメリカのイノセンス・プロジェクト等)、第3に、死刑適用の誤りを防ぐための「スーパー・デュー・プロセス」の保障(「死刑確定後の公選弁護人の保障」、「専門家による調査費用の保障」、「全米法曹協会による死刑事件ガイドライン」等)、第4に、冤罪と、誤った死刑適用の救済手続の強化が必要であると述べた。日本の死刑事件は雑との印象で、「死刑は特別」「命は特別」という視点が重要と述べた。


◎パネルディスカッション

パネリストは、袴田氏、角替弁護士、葛野教授、袴田事件を取材してきた中日新聞静岡総局の奥村圭吾記者。コーディネーターは、小林修会員。

奥村記者は、一般市民の袴田事件の受け止め方、再審開始決定前後の関心の変化を紹介。

角替弁護士は、死刑冤罪を生んだ原因を問われ、「裁判所、弁護士、そして、マスコミにも責任がある」と、弁護人としての素直な印象を語った。

葛野教授は、「死刑は取り返しがつかない絶対的な刑罰。それを保持、使用できるほど完全な刑事制度を持っていない。アメリカはそれに気づき始めている。アメリカでは、死刑廃止州が増えてきており、廃止しなくても執行しない州も多い」と述べた。

袴田氏は、「人が人を裁くことには、過ちがありうる。死刑は反対。ほかの制度に代えられないかと思う」と率直に語った。

木下芳宣人権擁護委員長が閉会挨拶し、充実した3時間半を締めくくった。