会報「SOPHIA」 平成26年5月号より

憲法週間記念行事シンポジウム
「みらいのために〜東アジアの平和をきずく〜」
第2部 対談の時間 進藤榮一氏×森英樹氏


憲法問題委員会 委員 吉  野   守

 第2部は、第1部の進藤榮一氏の講演を踏まえ、会場から質問も募り、進藤氏と森英樹氏の対談が行われました。なお、司会は長谷川一裕副委員長が務めました。

(1) まず、西沙諸島での中国の石油掘削を巡るベトナムと中国との緊張関係などの最近のアジア情勢や中国の動向を踏まえたときに、アジア経済が一体化し、アジア諸国間の経済が相互依存しているとしても、それだけで平和が維持できるのかという点について議論がなされました。

進藤氏は、先の講演を踏まえ、経済的相互依存が深まれば、争った場合の損失が大きいことから、争いを自制するようになり、戦争は起きないし、中国の軍事力もその軍備の内容や軍事費と経済規模との対比を考えると、恐れる必要はないとの説明をされました。

また、現在の中国の対日強硬路線も、尖閣諸島国有化を発端とする日本の対中外交の失敗により中国内の対日強硬派が勢力を持ったに過ぎず、日本が宥和政策で接すれば、中国の対日親和派が勢いを取り戻し、平和的解決に向かうとも述べられました。

その上で、中国は今後20年間経済発展を遂げると考えられており、中国の経済大国化はやむを得ない中でWin-Winの関係を築いて行かなければならず、経済共同体としてアジアの中で平和的に生きていくシナリオを作らなければならないと述べられました。

ただし、森氏からは、アジア諸国には、日本に対し、第2次世界大戦における加害者責任を果たしていないという思いが強く、日本がアジアに進出して行くにあたっては、その点に対する配慮が必要であるとして、ドイツが戦後行ってきた政策等を紹介されました。

なお、森氏からは、西沙諸島の問題が起こった直後に、ASEANが「国際法に基づく紛争の平和的解決と、関係国に自制と武力の不使用などを求める」声明を採択しており、ASEANの動きも注視すべきであるとの指摘もありました。

(2) 続いて、憲法解釈の変更により集団的自衛権の行使を容認することができるかとの問題につき、議論が進みました。

森氏は、現在の憲法9条の文言のどこをどう読んでも、集団的自衛権の行使を容認する解釈はできないと断言された上で、「安全保障の法的基盤の再構築に関する懇談会」は総理大臣の私的な相談機関にすぎず、結論を見据えた人選や議事の運営がなされており、今回の報告書に関しても何のサプライズもない、むしろ、専門家の報告書という点だけが強調されて、報告書が一人歩きすることが心配であると述べられました。

また、森氏は、世界6月号の野田聖子氏の記事を引用しつつ、集団的自衛権行使の結果として、日本が殺し合いに巻き込まれることなど問題をリアルに捉える必要がある旨述べられました。

一方で、進藤氏は、もっと理想を語るべきであり、政治家はあるべき姿をしっかり示し、それに対しどのようにアプローチしていくかをもっと考えるべきである、今の政治家にはそのような能力が不足している、と熱く語られました。


 90分しか時間がなく、十分語り尽くすことはできなかったかもしれませんが、それぞれの専門分野の立場から、アジアと平和と集団的自衛権=戦争国家体制づくりの問題性を多面的に明らかにしていただきました。