会報「SOPHIA」 平成26年5月号より

憲法週間記念行事シンポジウム
「みらいのために〜東アジアの平和をきずく〜」
第1部 講演の時間「アジア力の世紀」と日本国憲法


憲法問題委員会 委員 倉 知 孝 匡

1 シンポジウムの開催

5月18日(日)、進藤榮一筑波大学名誉教授と森英樹名古屋大学名誉教授のお二人を講師にお招きして、憲法週間記念行事シンポジウム「みらいのために〜東アジアの平和をきずく〜」が開催されました。

シンポジウム第1部では、進藤氏に「『アジア力の世紀』と日本国憲法」についてご講演いただきました。

本稿では、第1部の進藤氏によるご講演について紹介させていただきます。

2 多角的な状況分析の重要性

進藤氏のお話で印象に残っているのが、問題について考える上において、過去から現在までの出来事について多角的に分析をすることの重要性についてです。

たとえば、戦争という切り口においても、アメリカ・スペイン戦争〜アメリカ・フィリピン戦争に関する捉え方は、アメリカ側とフィリピン側では大きく異なっており、大国の視点だけではなく、実際の戦地となったフィリピンという現場からの視点が必要不可欠であるということです。また、戦争経費による財政赤字の問題であったり、大国同士の戦争から途上国における戦争への変遷など、戦争を考えるにあたって前提となる問題を様々な視点から考える必要があるということです。

そして、外交においても、単に敵対関係や同盟関係という一方的な視点ではなく、どのような利害関係があるのか、各国とも利益を得るために場面毎に対応を変えていること、さらに国内事情などを冷静に分析することを忘れてはいけないとのことでした。

3 危険を強調することの危険

進藤氏は、次のようなことも注意が必要であるとお話をされておりました。

それは、中国国内においても軍事的な拡大は控えるべきとの考えの者は少なからずいるものの、他国から中国の軍事的な脅威が強調されればされるほど、「中国に対する軍事的な圧力が強まっているので、さらに軍備を拡張せよ」との声が大きくなる状況があるということです。

このように互いに危険を強調することで、軍事的な緊張関係が高まってしまうというジレンマがあるため、この負の連鎖を断ち切るための方策を考えなければいけないとのことでした。

4 アジア共同体について

そして、進藤氏は、このような状況を変えていく一つの方法としてEUのような「アジア共同体」を実現することを提案されました。

経済に関しては、対アメリカ貿易から、対アジア貿易にシフトしており、相互依存の関係があり、ASEANの存在、ASEANにおける通貨融通措置など、協力関係を結ぶ手がかりがあり、また、歴史的な文化の共通性だけでなく、情報化社会により、直接人々が情報を交換し、日本における現代文化がアジアに広がっているなど、文化的な共通もあり、共同体を作る基礎が存在していることから、実現の可能性は十分にあると説明をされていました。

5 最後に

日本国憲法が目指す平和を実現するための方策について簡単に答えは出ないと思いますが、今回の講演は、そのヒントになるものと思いますので、これを活かしていければと思います。