会報「SOPHIA」 平成26年4月号より

子どもの事件の現場から(130)
福祉との連携を模索しています


子どもの権利委員会 委員 山 谷 奈津子

接見室ではじめて会った少年は、とても幼く、気の弱そうな男の子でした。


少年は、父親を殺そうとして、ナイフで父親の背中などを刺したという事件を起こしました。少年は、単独親権者である父親から日常的に身体的・心理的な虐待を受けていましたが、父親から間近に控えた中学校の卒業式に出席させないと言われたことに、これまでたまっていた不満が爆発したのです。


私は、犬飼敦雄会員とともに、被疑者国選弁護人に選任されましたが、少年が起こしてしまった事件の内容と、少年に会った印象とのギャップに驚きました。


面会を重ねていくうち、少年が接見室のアクリル板の会話するための穴を指で塞いだり、自分の指をくるくる回してアクリル板のステンレス部分に写る指を見て楽しんだりして、非常に落ち着きがないことに気づきました。また、少年は昼夜問わず異常な眠気に襲われており、面会の間も常に眠いと訴え、机に突っ伏したりしており、面会の時間があまり長く取れませんでした。


私と犬飼会員は、少年に何か障害があるのではないかと考え、家裁送致後、裁判所に対して鑑定の申請をしました。当初、裁判所としては、鑑別所での心身鑑別をすれば十分であり、鑑定までは必要ないとの姿勢でしたが、調査官が少年に面会に行くや否や態度を一変させ、すぐに鑑定を行うことを決めました。


鑑定の結果、少年には広汎性発達障害があることがわかりました。また、少年の異常な眠気についても、少年が、心理的・身体的虐待に対する防衛機制として身につけた解離症状であると考えられるということでした。そして、本件非行は、広汎性発達障害そのものが引き起こしたわけではなく、本件の背景にあるのは、広汎性発達障害という脆弱性を持つ少年が、適切な養育環境を与えられなかったために起こった育ちの障害であるとの鑑定結果が出ました。


障害に対する適切な理解がされないまま、父親から虐待を受け、ここまで育ってきた少年は、今までどんなに生きにくかっただろうと想像すると涙が出そうになりました。


審判の結果、少年は、少年院送致になりましたが、父親のことを依然拒否している少年は、父親も少年を強く拒否していることもあり、少年院を退院した後、帰る家がありません。私と犬飼会員は、少年院の職員の方とのケース会議をお願いし、少年の今後について話し合いをしました。


少年は、少年院退院後、福祉的なサポートを受けながら、少年の特性を理解してくれる環境で生活するのが一番いいと思います。そのためには、精神障害者福祉手帳を取得することが不可欠ですが、少年院の協力を得て、少年院在院中に同手帳の取得に向けて手続を進めることになりました。


また、少年院退院後にお世話になる予定の地域生活定着支援センターなどとも早めに連携し、可能であれば担当の方に少年院に面会に行っていただくなどの対応を考えています。


少年の現在の状況からすれば、少年院退院後は生活保護を受給して、グループホームなどで生活をしながら、就労につなげていくのが望ましいと考えます。


少年にとって生きやすい環境が整うことを祈るばかりであり、そのために私も微力ながら協力していきたいと考えています。