東大演習林への視察で学んだ森と水と人の関係
公害対策・環境保全委員会 副委員長 小 島 智 史
1 はじめに
2月13日、瀬戸市にある東京大学愛知演習林の赤津研究林へ、当委員会の委員8名で視察に行きました。
視察の前に、演習林生態水文学研究所長の蔵治光一郎さんから、演習林の沿革や、森と水と人との関係等のレクチャーを受けました。
2 演習林の沿革
今回視察に行った演習林の範囲は745haに及び、瀬戸市の森林面積の12%を占める広大な場所でした。現在の演習林には木が生い茂っているのですが、約100年前に演習林になった当時ははげ山ばかりになっていて、そのようなはげ山の森林再生研究が、東大に依頼され、演習林が設置されたということでした。
この地域ではげ山が多かったのは、瀬戸物、つまり陶器作りが盛んなことが原因だったようです。陶器を焼くための窯が700年も前からたくさんあり、窯で燃やすための薪が周辺の森から刈り取られ、そしてついには木の根っこを掘り出すまでして薪に使ってしまったために、はげ山になってしまったそうです。
一度木の根もないはげ山になってしまうと、土壌を留めるものがなく、雨水等で土壌がどんどん流出するので新芽も発芽しなくなり、ますます土壌が流出する一方となってしまいます。そうすると、大雨のときに川の下流により多くの土砂が流れて洪水による被害が起きやすくなり、100年ほど前には実際に深刻な水害が起こるようになっていました。そこで、その当時、河川法、森林法、砂防法等によって土地利用規制が行われ、伐採を制限するとともに、植林の推進のための取り組みが行われるようになったということでした。
3 森・水・人の関係
蔵治さんの説明の中で、森と水と人との関係では、森は人の欲求を満たす作用(機能)だけが重視され、森にはマイナスの作用もあることがこれまで十分意識されてこなかったというお話がありました。例えば、植物には水を保水した上でそのまま蒸発させる蒸発作用と、保水後ゆっくりと水を川に流す平準化作用があり、洪水防止には両方の作用がプラスになるが、渇水防止には蒸発作用はマイナスになるので、渇水緩和のためには、ただ植林するだけでなく、蒸発作用がより少なく、平準化作用がより多い森林にすることが求められるということでした。
そのような森林を作るには人が行き届いた管理を行うことが必要になりますが、50年前に建築用材木の需要が増加した後、現在は木材価格が著しく低下して林業が成り立ちづらくなり、木の管理がされなくなったり、伐採後に再度植樹をしなかったりといったことが起こっており、その結果、蒸発作用の強い森になったり、土壌流出の問題が改めて生じたりしているということでした。
レクチャーの後には演習林を実際に視察し、木が生い茂っているものの、一度はげ山となって土壌が弱くなっているためになかなか木が育たない場所を見たりしました。
洪水防止や渇水緩和の機能がともに発揮されるための持続的な山林管理の方法や、それに伴って必要となる制度について、今後、当委員会でさらに検討していきたいと思います。