子どもの事件の現場から(127)
パパになるために
会 員 北 川 喜 郎
私が附添人を担当した事件は、無免許等の道路交通法違反の事件でした。少年は、児童自立支援施設、試験観察後の保護観察、少年院を2回経験し、少年院仮退院中に起こしたのが本件事件でした。少年の年齢は19歳と10カ月。試験観察はできない。場合によっては逆送だって有り得る状況でした。
鑑別所で私が初めて少年にあった時、少年が「僕は、もうこんなことしてる場合じゃないんです。反省して、立ち直らなきゃ。僕パパになるんです!」と話してくれたことを今でもよく覚えています。少年は、本件逮捕後に、面会に来た交際相手から、少年の子を妊娠している事実を告げられたのでした。
少年は、両親の離婚後、父親と一緒に暮らしていたけれど、次第に家出を繰り返すようになりました。父親は調査も審判も欠席。私との電話では「先生、頑張らずに息子を少年院に送ってください」と話していました。少年は前件の少年院を出た後に、母親の下で1カ月だけ暮らしました。しかし、母親が同居する愛人から虐待を受け、その場を逃げ出してきてすぐ本件事件が起きてしまったのです。私は、少年には落ち着いて生活できる環境が必要であると強く感じました。
社会記録を見ていると、少年が試験観察期間中の1年間、F県の補導委託先でとても落ち着いた生活を過ごしていたことに気が付きました。少年は「自分にとってその施設は、一番自分らしくいられた所だった」と話してくれました。そこで、その委託先の代表の方に電話をかけてみると、少年が試験観察中非常にまじめに頑張っていたことを覚えてくれていて、もし良ければもう一度来ないかと申し出てくださいました。
早速、裁判官と調査官と三者面談の機会を持ち、その委託先での生活の必要性と少年の内省を力説。すると、裁判官から「仮に、審判当日にその施設に行けることになったら誰が少年を施設まで連れて行くのですか」との質問が。力説の勢いそのままで反射的に「もちろん、私が責任をもって送っていきます!」と返答。若干の期待を抱きながら、審判に臨みました。
審判では、少年は素直な言葉で自分の反省を話すことができました。それに対する裁判官の答えは「検察官送致」。F県の施設が少年の更生に必要であることは認めるけれど、少年には「社会的けじめ」が必要であるから刑罰をとの判断でした。結局、少年は1カ月後に略式命令で罰金30万円となりました。
在宅での検察官送致となったため、その日のうちにF県へ向かうことに。しかし、委託先と連絡を取ったところ、保護観察による就労支援なしでは、F県では就労先を見つけることができないから、就労先が見つかってから来てほしいとの方針転換。保護観察をもらえなかった少年は委託先に受け入れてもらえませんでした。
急遽、次の行き先が決まるまでの間、自宅で生活させてもらえるように少年と一緒に父親を説得。父親もこれを承諾してくれました。
その後、間もなくして、少年は住み込みで働ける職場に就職。今では、妊娠している交際相手と同居しながら、塗装の仕事を頑張っています。途中、罰金の納付期限に支払えず、なんとか納期を延長してもらえないか少年と一緒に検察庁にお願いに行ったこともありました。
生活していくだけでもギリギリな少年たちにとって、「社会的けじめ」としての罰金30万円は余りに重たい負担です。でも、その重たい負担を肩に背負って、毎日一生懸命に働く少年の顔は、もう既にパパの顔に変わり始めていました。