会報「SOPHIA」 平成25年12月号より

支援弁護士制度・その役割


高齢者・障害者総合支援センター運営委員会
副委員長 松 隈 知栄子
第1部会部会長 加 藤 孝 規

1 支援弁護士とは

当職らが所属する第1部会は、主に高齢者・障害者総合支援センター(アイズ)の内部の活動を担うが、その中で最も重要なのは、アイズの活動を中心的に担う支援弁護士の名簿管理及び育成である。

支援弁護士は、アイズが指定する一定の研修を受け、弁護士賠償責任保険に加入している当会会員によって構成されている。

支援弁護士の活動は、家裁等からの成年後見人候補者となること、アイズに持ち込まれた財産管理や出張相談等を担当することなどであり、支援弁護士はアイズが関わる具体的な事件等に実際に関わり、処理する。

アイズ発足以来、アイズの活動を担う支援弁護士の数を増やし、層を厚くすることが課題であった。しかし、近年、若手会員の増加と共に、高齢者の分野が弁護士業務の点からも注目されていることもあり、若手会員を中心に支援弁護士の数は増え、平成25年11月22日現在、373人となっている。

2 現在の状況

(1) 家庭裁判所からの推薦依頼の増加

平成24年1月〜12月の統計(最高裁家庭局)によれば、親族等以外の第三者の選任割合は51.1%(そのうち弁護士は27.7%)となっており、弁護士の選任率は前年比40.8%の増加である。この統計からも専門職後見人、さらには弁護士のニーズが高まっていることが分かる。名古屋家庭裁判所からの推薦件数も年々増加している。もちろん弁護士が選任される案件は単なる財産管理に留まらない。虐待・遺産分割・交通事故等の法的紛争を抱えたり、その他親族間対立が激しかったりするケースはもちろん、ここ数年は、親族後見人による財産侵害が問題となっており、既に就任している親族後見人から新たに交替するケースや、親族後見人に対する後見監督人となり親族後見人を監督するケースなど専門職としての経験・能力こそが求められるケースがほとんどであり、さらに最近ではその内容がより一層複雑かつ困難なケースが増えている。


(2) 名古屋市からの老人福祉法第32条等に基づく市町村長申立てに伴う成年後見人候補者の推薦依頼

核家族化・高齢化社会が進み、1人暮らしの高齢者や、さまざまな事情から親族に頼ることができない高齢者が増加する中で、成年後見制度を利用する上で、市町村長申立制度は重要な役割を担っている。当会はこの市町村長申立制度のより一層の利用促進のため、 名古屋市との間の契約により、名古屋市が行う後見等開始の審判の市町村長申立てについて、予め支援弁護士を成年後見人候補者として推薦している。名古屋市が行う後見等開始の審判の市町村長申立ては年々増加している。平成24年の家庭裁判所管内別の市町村長申立件数(最高裁家庭局)では名古屋家庭裁判所管内は全国7位となっている。


(3) 以上より、高齢化社会が進み、事案がより複雑かつ困難なものが増える中、支援弁護士に対するニーズは高まっている。

3 支援弁護士に何が求められているか。

(1) 質の確保

成年後見人等は財産管理が主たる業務である。成年後見制度利用のきっかけとなった遺産分割・交通事故等の法的紛争を解決することは弁護士としての日常業務と同様であり、日々の業務等から経験等を積むことが可能である。一方、利用のきっかけとなる紛争の中には、虐待事案も散見され、高齢者虐待防止法の知識はもちろんのこと、虐待の背景の調査、虐待をしている養護者等との関係調整等、弁護士だけではなく、福祉関係者との連携等も求められている。また、近年、高齢社会を背景に高齢者らを対象にした高齢者らの住まいをめぐる経済活動等も活発化している。そのため、専門職後見人に対しては、成年後見業務として、福祉関係者との連携、さらに高齢者らの安定的な住まいの確保のための知識など、財産管理のみならず身上監護での活躍が期待されているのである。

そこで、アイズでは支援弁護士に対して、年に2回の研修を行うとともに、その内容についても時宜を得た研修となるように努めている。

また、これまで当委員会内及び60期以降の会員を対象にアイズの役割、福祉法制との関わり、福祉関係者との連携、虐待防止法、障がい者のための権利擁護、成年後見制度の基礎知識、成年後見制度の課題について、5月頃から2週間に1回、計7回のランチタイム勉強会を行っている。今後も同ランチタイム勉強会の在り方等も検討し、支援弁護士向けの研修とともに充実を図り、会員の質の向上に尽くしていきたい。是非、アイズの開催する研修には積極的に参加していただきたい。


(2) 業務の適正

ここ数年、専門職後見人の後見業務の適正さが強く求められている。この間に発覚した専門職後見人による管理財産の使い込み等の案件により、専門職としての信頼が大きく揺らいでいることも一つの要因となっている。もちろんその事案の傾向は明らかに意図的な違法行為といわざるを得ないものから、業務上・心身上の要因や弁護士職務倫理上の問題が重なったものまで様々ではあるが、成年被後見人等の権利・利益の観点から、早急な不祥事防止のための対応を取ることが求められている。例えば、他業種として、司法書士会は、公益社団法人成年後見センター・リーガルサポートを立ち上げて成年後見業務を重要な事業と位置づけ、積極的な活動を行うとともに不祥事対策にも力を入れている。

現在、アイズでは、委員が毎月2名担当者となり、支援弁護士からの日常業務等についての相談を受け付ける体制を整えているが、残念ながら相談件数は少ない。相談すべき事案がないのであればよいが、認知度が低く十分に機能してない可能性もあり、今後は制度の在り方も含め検討する予定である。そして、さらにアイズでは、今後、研修体制・OJT・相談支援体制等の強化、支援弁護士の登録資格等の検討、そして質の担保された後見人等推薦名簿の整備等を行い、事件と支援弁護士のより適切なマッチング等に努めていきたいと考えている。また、成年後見制度における支援弁護士の選任は家庭裁判所の専権事項であるとともに、家庭裁判所は監督機関であることを念頭に、まずは適切な成年後見業務の遂行のために家庭裁判所との間で協議会等を開催するとともに、不祥事防止についても何らかの対応、調整関係の確立等が必要であり、今後の検討課題であると思われる。


(3) まとめ

以上の通り、高齢者等の権利擁護のために、支援弁護士に対する期待は高まっているのであり、それに応えるためにも、アイズは支援弁護士の質の向上とともに業務の適正さの確保に努めていきたいと考えている。