会報「SOPHIA」 平成25年10月号より

取調べの可視化市民集会
「元検事とえん罪被害者が取調べを語る!!」


取調べの可視化実現本部 委員
黒 岩 千 晶

10月12日、ウインク愛知にて多くの市民参加のもと「取調べの可視化市民集会」が開催された。今回の市民集会は、第1部では「取調べを受けた体験談」として枚方市談合事件(平成19年起訴、平成21年無罪確定)のえん罪被害者小堀隆恒さんの講演、「取調べをした元検事の体験談」として元検事の市川寛弁護士の講演をいただき、第2部では「取調べの過去、現在、未来」と題して取調べについてパネルディスカッションを行い、取調べの全面可視化の必要性について考えた。

前回の市民集会では、同じくえん罪被害者である布川事件の桜井昌司さんから講演をいただいた。これは取調べを受けて虚偽自白をしてしまった方からの話であったのに対し、今回の講演は、勾留期間中自白をせず否認をし続けた方からの話であった。やってもいないのに自白してしまう人の心理も興味深かったが、反対に、捜査機関の思い描くストーリーに屈せず否認を貫くと、こうも過酷な取調べが待っているのかと話を聞いて正直なところ恐ろしくなった。

小堀さんは、担当検事が椅子を蹴って壁にぶつけて大きな音を立てて威嚇し(最後に椅子は壊れてしまったとのこと)、「クズ野郎、ゴミ野郎」「お前の家族も同じ目に遭わせてやる」「施設にいるお前の母親(介護施設にお住まいで90歳を超える)も連れてきて調べてやる」「二度と枚方に住めないようにしてやる」と連日怒鳴り散らされ、排尿障害が生じてもロクに水分補給もさせてもらえず、オムツ着用で連日の取調べを受け続け、最後は死を覚悟したと生々しく語った。検事は、小堀さんが何を話しても聞く耳を持たず「特捜という大きな組織が動いているから今さら止まらないぞ」と怒鳴り続けたが、その一方で、憔悴しきった小堀さんに対して「この調書にサインさえすれば明日にでも家に帰してやる」と猫撫で声でささやいたという。小堀さんが、最後まで否認を通して生きて帰って来られたのは「私は運が良かったから」と語ったのが印象的だった。

次に、元検事の市川弁護士は、上司から「どんなことをしてでも割れ」と言われ、否認を続ける被疑者に対して「ふざけんなこの野郎、ぶっ殺すぞ!」と暴言を吐き、見事に自白調書に署名させた経験を赤裸々に告白した。検察庁では常に上から「割れ、割れ」とプレッシャーをかけられ、自白調書に署名を取れる者が評価される傾向があると語り、小堀さんの体験談を聞いて心苦しいと吐露した。さらに、自分の上記暴言により自白調書を作成させた事件(佐賀市農協背任事件:平成13年逮捕起訴、平成17年無罪確定)が起きた数年後でも、検察庁ではまったく反省なく同じことが行われていることに触れて、検察の体質的問題があると指摘した。

私たち弁護士が一番知っていることだが、検事個々人に悪い人はいない。それなのに、どうして上記のように暴行脅迫を伴う取調べがなされてしまうのだろうか。えん罪を無くすべく検察組織に太刀打ちするためには、取調べ過程の全面可視化しかないように思えてならない。1日も早い全件全過程の録画による取調べの可視化を実現したい。