会報「SOPHIA」 平成25年10月号より

シンポジウム第3分科会
「不平等」社会・日本の克服
−誰のためにお金を使うのか−


人権擁護大会シンポジウム第3分科会実行委員
人権擁護委員会 生活保護問題部会長
森   弘  典

1 はじめに〜シンポジウム企画の経緯
10月3日、広島国際会議場ダリアで、標記シンポジウムが開催され、600名を超える方が参加されました。大企業・高額所得者に富が集中する一方、私たちの暮らしを支える社会保障は「財源不足」や「自立・自助が基本」などを理由に削減が続いていきます。私はシンポジウム実行委員として関わりましたが、このような社会を、私たちは「不平等」という言葉で表現しました。
2 基調講演〜「成長戦略」は誰のため?

第1部「基調講演」では、ジャーナリストの斎藤貴男氏が「成長戦略と不平等社会の因果関係」という演題で講演されました。

斎藤氏は、安倍政権が3本の矢の1つとして掲げる「成長戦略」は経済成長の手段の一つではあるが、人件費削減を大きなテーマとするなど経済成長を阻害するものは邪魔というようにそれ自体を目的にしてしまってはいけない、消費税の本質は「弱い者の富を強い者に移すための税制である」という問題を議論しなければならないと訴えられました。


3 基調報告〜不平等を克服するための提言
第2部では、実行委員会から、貧困が拡大し「所得再分配」が実現されていない日本の現状を踏まえて、デンマーク、イタリア、フランスの海外調査結果に触れながら、改めて社会保障基本法を制定する必要性を提言するとともに、所得再分配機能を重視した応能負担原則による税制の再構築、税制・社会保障制度・労働法制等を審議する場における政策形成過程の透明性と公正性を提言しました。提言は、翌日の大会で採択されました。
4 特別報告〜主権者として税金を考えよう
続いて、実行委員で、租税法の第一人者である三木義一氏が、主権者として税金を考えるための10のポイントとして、税金は私たちが法律で合意し払うもの、税金とその歳出こそ人権の基礎、私たちが、私たちの政府を作ることが何よりも大事と力強く訴えられました。まさに財政民主主義の実践が重要です。
5 当事者報告〜実体験からの訴え
「当事者報告」では、障害のある方、派遣切りされた方、シングルマザーの方がそれぞれの実体験から、一人一人の人権が守られる運動を拡げていかなければならない、安心して働き安心して生活できる社会を考えてほしいなどと訴えられました。
6 パネルディスカッション
第3部「パネルディスカッション」では、稲葉奈々子茨城大学准教授、荻原博子氏(経済ジャーナリスト)、後藤道夫都留文科大学名誉教授、神野直彦東京大学名誉教授、田端博邦東京大学名誉教授をパネリストとして議論が交わされました。財政危機と言うが財政が本来の使命を果たせない(社会的な危機をなくせない)ことが問題で、「不平等」社会を克服するためには、所得再分配と再分配前の分配(労働分配)の両方が実現されることが必要であること、自由競争は日本の社会を富ませるとして「自己責任」の国にするのか、貧困を社会の責任と考え助け合っていく国にするのか、どういう社会を創っていくのかは私たちが決めていくものであること、権利を確立していく社会運動が重要であることが確認できたと思います。
7 今後の取り組み
実行委員会としては、当然ながら人権擁護大会で終止符を打つのではなく、そこで採択された決議を実現し、「不平等」社会を克服するために、計画を練っています。