シンポジウム第2分科会
なぜ、今「国防軍」なのか
−日本国憲法の安全保障と人権保障を考える−
人権擁護大会シンジウム第2分科会実行委員
憲法問題委員会 委員
川 口 創
10月3日、広島にて、第56回日弁連人権擁護大会のシンポジウムが開催され、翌4日には大会が開かれた。3日のシンポジウムは3つの分科会があり、そのうちの1つである第2分科会では、「なぜ、今『国防軍』なのか」が開催された。私は、その分科会の実行委員として、また、パネルディスカッションのコーディネーターとして関わらせていただいた。
自民党が去年憲法草案を公表し、また、安倍政権が憲法改正に前のめりになっている中、日弁連が憲法改正に正面から焦点を当てたシンポジウムを行い、大会決議を行う、ということはとても意義があるものだったと思う。
まず、冒頭、「憲法って、何だろう?」というビデオから始まり、開会宣言の後、伊藤真さんから「自民党改憲草案の目的と危険性」と題して問題提起があった。
前日深夜まで、時間内に伝えられるようにと練り上げられた報告は、日本国憲法の価値を示し、いかに自民党改憲草案がひどいものかを浮き彫りにする素晴らしい内容だった。
続いて、「『国防軍』にすることの意味」と題して、青井未帆さん(学習院大学法務研究科教授)の記念講演があった。今の憲法を巡る危機的状況について、これほど的確に、かつ冷静に話ができる論者がいたのか、と感銘を受けた。国家安全保障基本法が、憲法を頂点とする法体系を下から根こそぎ変えてしまうものであることをシャープに指摘された。
その後、ビデオレター、「被爆の実態−いまなお続く被爆の苦しみ」、大森典子弁護士「慰安婦問題−いまなお続く慰安婦たちの生活苦」、高遠菜穂子氏「イラク戦争からの10年たった今」が流され、9条を巡る様々な問題に向き合った後、厚木基地の爆音を会場で再現する、という試みがあった。
大音量の下、「被害」を体感し、共有することで、「これはひどい」という感情で会場が一体となった。日本は主権国家とは言えない、ということを肌で感じた瞬間だった。
その後、休憩を挟んで、パネルディスカッションに入った。
まず、4人のパネリストの方から、まず前半はそれぞれ15分ずつ、話をいただいた。
パネリストは、半田滋さん(東京新聞論説兼編集委員)、孫崎享さん(元外務省国際情報局長)、李鍾元さん(早稲田大学大学院アジア太平洋研究科教授)、浜矩子さん(同志社大学大学院ビジネス研究科教授)。
前半終了前に、会場発言ということで、那須弘平・元最高裁判事(弁護士)にお話しいただき、「憲法難民」にどう向き合っていくか、という貴重な問題提起があった。
休憩を挟んで、4本のビデオレターが流された。@伊勢崎賢治氏「武装解除と9条の現実的な力」、A梅林宏道氏「アジアにおける平和構築の実践」、B故品川正治氏「財界人として生きて」、C「国連で議論されている平和への権利について」。
その後、パネルディスカッションの後半、いよいよ議論に入った。後半には、伊藤真さんにも法律家として加わっていただいた。
後半では、国家安全保障基本法案について、これが、まさに今最大の焦点になってくる、ということで、冒頭、伊藤真さんに解説いただいた。
その後、半田さんから、集団的自衛権行使の議論のまやかしについて厳しい指摘があり、続いて、孫崎さんから、オバマ政権に変わっても、日本に集団的自衛権行使を求める方針は基本的に変わっていない、という指摘があった。
浜さんからは、安倍政権の政策は、平成の富国強兵政策であり、いつかまた破綻する、という指摘があった。さらに、李さんからは、ASEAN+3など、アジアの平和の枠組みを具体的にご指摘いただき、各論者から、その後、「厳しい国際環境の中で軍事力を高めなければ」という意見に対する具体的な反論の議論がなされた。
かなり具体的に実りある議論になったと思っている。
最後に、青井さんからパネルディスカッションを受けてのコメントがあり、日本は主権国家なのか、という趣旨の投げかけがあった。
今日得たことを各地に持ち帰って、市民との対話につなげよう、ということを確認し、パネルディスカッションは終わった。
その後、実行委員長によるまとめの挨拶があり、広島弁護士会副会長の挨拶を経て、会の全体は終わった。
まさに、憲法が危機的状況にあるなかで、様々な情報を共有すると同時に、9条を活かす道に確信を持つことができた、極めて時宜にかなった充実した集会となったと思う。
延べ700人を超える参加があり、熱気溢れるものだった。私は、パネルディスカッションのコーディネーターを務めたので、壇上から会場を見渡していたが、同期や教官、各地の弁護士会の会長や会長経験者など多くの方が熱心に聞いてくださっていた。
当会は、現会長、前会長をはじめ、多くの方が参加してくださった。
多くの人とも同じ時間を共有できた意義は大きい。
最後に、人権擁護大会の実行委員として、また、パネルディスカッションのコーディネーターをやらせていただいての感想である。
中弁連から、憲法問題委員会の副委員長に選任され、その中で他に人を差し出せなかったので人権擁護大会の実行委員になり、さらに自分が欠席した会議の中でパネルディスカッションのコーディネーターに選ばれた、という極めて他動的な関わりで今回仕事をすることになった。
実行委員会の会議に日弁連に行く以外にも、左右の憲法問題の本を読んだり、パネリストとの打ち合わせなどの準備も大変だった。何より、プレッシャーもそれなりのもので、率直に言って時間的にも能力的にも大変だった。
しかし、様々な全国の先輩弁護士と出会うことができ、人間的な部分も含めてたくさん学ばせていただいたことは、得がたい経験だった。良い出会いは、人を豊かにする、とよく言うが、素晴らしい出会いにたくさん恵まれた、と思って感謝している。
ぜひ、当会の会員のみなさんも(特に若い方は)、人権大会に関わられたら、貴重な経験が出来るのではないか、と思うところである。