会報「SOPHIA」 平成25年9月号より

日弁連第56回人権擁護大会プレシンポジウム
「核のゴミとどう向き合うか
−原子力発電所からの放射性廃棄物について考える−」
開催される


公害対策・環境保全委員会
委員 小 林 哲 也

1.はじめに

9月7日、栄ガスビル「栄ガスホール」において、当会主催、日弁連、中弁連、三重弁護士会、岐阜県弁護士会共催によって標記シンポジウムが開催されました。

原子力発電を行った以上は、核のゴミをどうするのかという問題は避けることができません。原子力発電についてどのような立場を取っても、高レベルの放射性廃棄物の問題は、将来の世代に対する責任をどのように果たすのかという観点から考えていかなければならない課題です。本シンポジウムでは、環境社会学から核燃料サイクル問題を研究し、日本学術会議の高レベル放射性廃棄物の処分に関する検討委員会の原子力委員会に対する回答書作成の中心となった舩橋晴俊法政大学教授、核燃サイクル阻止1万人訴訟原告団事務局長の山田清彦氏、原子力委員会委員長代理の鈴木達治郎氏を迎え、かかる核燃料廃棄物問題について講演・議論がなされました。

2.導入報告

まず、小島寛司委員から核燃料廃棄物問題の基本的事項について報告がなされました。

既に発生している使用済核燃料は、各原発が保管できる容量の7割ほどになっている。青森県六ヶ所再処理工場の再処理のための貯蔵量が3000トンの限界に近づいており(これが各原発に返還されるとすると、その貯蔵率は8割を超える)、使用済核燃料の貯蔵量は限界に近づいているといえる。

高レベル放射性廃棄物の処分として現在進められているのは地層処分で、地下300メートル以上の地層に埋設し人間環境から隔離するというものである。地震多発国の日本に安定的な地層があるかという問題がある。

3.基調講演「震災後の社会変革と高レベル放射性廃棄物問題の検討」(舩橋晴俊教授)

高レベル放射性廃棄物をめぐっては、(ア)エネルギー政策という総論部分について社会的合意の欠如のまま、最終処分地選定という各論部分について合意形成を求める本末転倒の手続、(イ)超長期間にわたる放射性廃棄物による汚染発生可能性への対処の必要性、(ウ)受益圏と受苦圏の分離、という問題がある。

放射性廃棄物の処理については、暫定保管が妥当と考える。その理由は、現在の知識の限界の認識にある。すなわち、現在の科学的知識では、日本列島の中に今後、数万年単位で、安定した地層を有する地点の特定はできない。暫定保管は、所定期間の安全性確保は当然として、将来の再選択に開かれた方式であり回収可能性がある、将来世代の決定・選択可能性を保障できる、というメリットがある。

暫定保管方式の実施のためには「各電力圏域内での対処」の原則が必要である。現在は、受益圏から受苦圏への環境負荷の外部転嫁が連鎖的になされている。すなわち、中心部の電力受益地域から原発立地地域へ、同地域から使用済核燃料受け入れ地域へ、同地域から高レベル放射性廃棄物最終処分地域へと、環境負荷の外部転嫁が行われている。公平性が保たれないと社会的合意など形成できない。

4.パネルディスカッション

@ 鈴木達治郎氏の冒頭発言「今後の高レベル放射性廃棄物処分に係る取組について」

原子力委員会の処分懇談会報告書(平成10年)では、高レベル放射性廃棄物については後世代に負担を残さないことが我々の責務であること、専門家の間での技術的な議論だけでは解決できず社会的な受容という観点から議論すべき課題が存在すること、立地地域とその他の地域との社会経済的公平が確保されるべきこと、処分事業について公正な第三者によるレビューが必要であることが提言されている。

科学の限界の認識は必要である。高レベル放射性廃棄物の安全評価については、どの基準を満たせば「安全」といえるか難しく、不確実性が高いといえる。したがって、「処分施設を閉鎖すること」についてステークホルダー(放射性廃棄物管理に関する意思決定プロセスに役割あるいは興味を持つ全ての人々)間で納得され受け入れられるまでは、最新の科学技術的知見に基づき処分計画を柔軟に修正・変更することを可能にする、可逆性と回収可能性が確保されることが必要である。


A 山田清彦氏の冒頭発言「迫りくる危険を知らされずに生きる皆さんへ」

高レベル放射性廃液が大量に貯蔵されている六ヶ所再処理工場、東海再処理工場で事故が起きれば、原発事故以上に深刻な被害が生じ、日本は危機に陥る。

日本には地震やテロ攻撃を受ける危険性がある。他方で、日本の電力需要は、原発以外で十分にまかなえるデータがある。しかも、今後日本の人口は減少する。それなのに原発が必要なのか。

ウラン資源は約100年で枯渇するので、約100年後には原発は存在しない。しかし、核のゴミは管理し続けなければならない。その管理費用を原発の恩恵を享受しない未来人が払うことになる。


B 原発をめぐる世代間の問題について。我々世代が果たすべき責任とは

【舩橋教授】 少なくともこれ以上原発を増やさないことが我々世代が果たすべきこと。今あるものについては、安全性を一番の基準とした上で、その処分方法を検討すべきである。地層処分では安全性を確保できないから、暫定保管が妥当である。

【鈴木氏】 地層処分の考え方は、人の管理が必要のない場所を見つけるというもの。それが見つかるまでは人間が管理することになる。そういう意味では暫定保管に近いかもしれない。それらにかかるコストは、原子力発電が稼働している期間で回収できるように計算されている。

【山田氏】 最終処理までのコストが約18兆円という計算があるようだが、福島事故をみるとそのコストはまったく計り知れない。現在の世代だけの負担ですむとは思えない。また、現在の状況をみていると、何か核のゴミが出れば六ヶ所へということになるのではないかと、不安に思っている。

5.おわりに
本シンポジウムには、150人の定員を大きく上回る参加者がありました。これは放射性廃棄物問題に対する関心が高いことの表れだと思います。立場の違いを超えて問題意識を共有し、解決の道を探らなければならないことを認識する機会になったと思います。