会報「SOPHIA」 平成25年8月号より
   

どんな支援がよかったのか…
〜軽度知的障がいのある少年のケース〜

子どもの権利委員会
委員 杉 浦 宇 子


1 この少年の非行は、窃盗と窃盗未遂(いずれも共犯事件)。少年は19歳で初めて鑑別所。私は、そこで少年と出会いました。


2 少年は、初回面会のときから、大変人懐っこい表情で良く話をしました。あからさまな自己弁護的な話も一生懸命し、「僕は“やればできる子”と良くいわれる。」と嬉しそうに話す様子は、19歳という年齢にしては幼すぎる感じがして、面食らいました。


3 前歴があることは、少年の口からは出ませんでしたが、記録からすぐに判明しました。15歳のときの非行で事案軽微で審判不開始となったのは理解できましたが、18歳のときに道交法違反、窃盗その他合計5件が在宅扱いとなっていたのは不思議に思いました。当時の少年の生活環境が安定していたようには思えなかったからです(この18歳のとき、少年は審判前に所在不明となりました)。


4 少年の父はあまり働かず、経済的に困窮していました。母は知的障がいがありましたが、少年にはとても優しく、少年は母が大好きでした。その母が亡くなり、父はひとり家を出て行き、兄から暴力を受け、少年は中学で家を飛び出し、泊めてくれる人のところを転々としていました。地域の児童委員からの相談で関わった児童相談所は、少年が施設に行くことを拒否したという理由で、関わりをすぐに終えていました。


5 鑑別結果では、IQ=70で、随所に「知的能力に制約がある」という言い回しが見られました。私は、正直知能検査の見方は良く分かりませんが、この少年に知的障がいがありそうだということは、理解できました。

 それでも、少年は、親の関わりがなくてもそれなりに生き延びてきていました。調査官は、少年の実際の能力は、検査数値より上だと評価していました。


6 逮捕前も少年は知人の家を転々とする生活をしており、住込み就職先を探せなければ、少年院送致となる見込みは高いと思っていたところ、運よく良い住込み就職先と出会うことができました。親方は厳しそうでしたが、面倒見も良さそうで、母親の死後、大人の養育監護を受けずに、行きあたりばったりのような生活をしてきた少年には、大人モデルになるような人との密な関係を経験することは良い方向への成長につながると思い、試験観察の意見書を提出し、裁判官とのカンファレンスでも、熱く主張しました。


7 結果はなぜか保護観察。今すぐの保護観察は、相当不安がありましたが、信頼できる親方につなぐことができ、あとは少年の頑張りに期待しようと思っていました。

 ところが…数日で無断欠勤が始まり、色々と親方を困らせたすえ、2週間ほどで、少年は寮を出て行方不明となりました。私は親方から少年の知的能力について、ちゃんと説明がなかったと叱られてしまいました。親方は、短期間の生活で、少年の言動に違和感を持っていたそうです。

 少年の知的制約の程度や傾向、現実の生活場面での現れ方を把握しなければ、少年の障がいの程度に合った必要な関わりを考えることもできないのだと実感するのと同時に、もっと小さいうちに彼に適切な福祉の支援が為されていればと悔やまれる…。