会報「SOPHIA」 平成25年7月号より

障がいのある人の事件と私の関わり

会 員      
中 谷 雄 二


1 私は、36期です。当初4年ほど三重県の四日市で弁護士をし、その後、名古屋第一法律事務所に移りました。丁度、私が名古屋に移った頃に同期で京都にいる竹下義樹弁護士(全盲)から「名古屋の養護学校で子どもが体罰を受けたというお母さんがいるので、私を紹介する」という連絡が入りました。事務所に来てもらって話を聞くと、被害を受けたのは、高等部2年の男子で重度の知的障がいがあり知的能力は2歳程度ということでした。教師から体罰を受けたと訴えているというのです。事件は密室で、診断書はあるものの、何があったかを裏付けるのは、被害者の証言しかありません。


2 これまで、司法修習生時代に竹下さんと知り合い、一緒に出歩くようになるまで、障がいをもった人との関係はありません。事件を受任するかどうかとまどいましたが、お母さんの「こんな子の言うことだからと真剣に取り合ってもらえないことがくやしい」という言葉に、どこまでやれるかわからないが、一緒に頑張りましょうと、同じ事務所の田原裕之会員と一緒に受任することにしました。


3 一審判決で否認する被告の訴えを退け、知的障がい者の証言を信用できるとして、原告勝訴の判決を得ることができました。民事訴訟で初めて正面から知的障がい者の証言の信用性を争った事件と評価され、知的障がいをもつ子の親の方から、この判決を知り、自分の子ども達も裁判ができるのだと力づけられたというお話をいただきました。事件そのものは、高裁で逆転敗訴し、最高裁で敗訴が確定しましたが、教育関係の判例を紹介した書籍などでもとりあげられました。


4 この事件がきっかけとなって、障がい者運動に関わる方などと知り合いになり、そこからの紹介で障がいを持つ人の事件が継続的に来るようになりました。障がいを持つ人は、訴えたいと思っていても、多くの弁護士が受任を断ります。名古屋だけではなく、隣の県からも紹介を受けて相談に来られ、事件を受任したこともあります。知的障がいだけでなく、視覚障がい、聴覚障がいなどの事件にも関わりました。


5 このように全く偶然に関わった障がいを持つ人の事件ですが、現在の私にとっては非常に貴重なものとなっています。何より障がいをもつ人の立場から物を見たり、考えたりできることが、社会を見る目を広げてくれました。そして、事件を担当すると、いかに現在の社会が健常者中心の社会であるかに気付きます。


6 全国の障がいを持つ人の事件を扱う弁護士の集団として、「障害と人権全国弁護士ネット」があります。毎年、全国から障がいをもつ人の事件を扱う弁護士が集まって研究会を開いたり、出版などをしています。あるいは困難な事件や大きな取り組みを必要とする事件では、全国から代理人を募り弁護団を組むこともあります。現在では、若手弁護士が活動の中心となって全国各地で障がいを持つ人の事件を積極的に取り組んでいます。


7 若手弁護士の方にはおそれず積極的に事件に取り組んで欲しいと思います。大変だとか難しいと思う事件に取り組んでいく中で、新しい分野が開けたり、自分の視野が広がったりします。相談者の話に耳を傾け、やるべき事件であれば、難しくても一緒に困難を切り開くつもりで担当してみてはいかがでしょうか。障がいを持つ人の事件は、現在でも関わる弁護士が少なく、弁護士が必要とされている分野です。