外国人相談シリーズ
がん患者の治療のための在留を認めた画期的な名古屋高裁判決
人権擁護委員会 委員
宮 崎 真
- 1 在留を認めた裁決取消等訴訟
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6月27日、名古屋高裁において、私が担当した事件で、裁決及び退去強制令書発付を取消す画期的な判決がなされました。
事案の概要は、韓国籍の女性が、平成11年に生け花の修行をするために来日し、平成16年に超過滞在になった後、胸腺癌を発症して平成22年には癌摘出手術を受け、極めて再発率が高い中で経過観察を行っていたところ、入管から退去強制を命じられていたものです。高裁において逆転勝訴して在留が認められました(上告なく確定)。
- 2 本判決の特筆すべきポイント
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@在特に係るガイドラインの位置づけ
平成18年10月に発表された「在留特別許可に係るガイドライン」(以下、ガイドライン)について、国側は一義的な判断基準を定立するものではないと主張していました。本判決ではガイドラインは一義的な判断基準を定立するものではないが、ガイドライン作成の経緯は従前の在特判断の曖昧・恣意的運用に対する批判があったこと、その策定においても入管内部で慎重に検討されていること、現在の運用はガイドラインによっていることから、ガイドラインの基準から大きく離れた判断は、特段の事情が存在しない限り、平等原則ないし比例原則に反するものとして、裁量権逸脱濫用となるという基準の位置づけを確認しました。
A国際条約の尊重
本判決は、国際条約も重要な考慮要素になることを判示しました。在特許否判断は法務大臣の広範な裁量に委ねられるが、国家が国際慣習法に基づく権限を謙抑的に行使することを決意し、外国人にも、その性質に反しない限り、日本国民と同等の権利を付与することは、憲法上(前文、98条2項)はもちろん、国家主権の観点からも問題はなく、医療環境の整備を定めた社会権規約12条に照らせば、医療に関する利益が入管法上も尊重されるべきことは当然であり、裁量権行使にあたって、重要な考慮要素となるとしました。
Bがん患者に対する配慮について
医療の点は、医学的水準の比較だけではなく、個別的情報の集積や医師との信頼関係に基づくものであることを指摘し、患者が安心できる治療環境に価値を見出しています。健康、特に生命にかかわる病気を抱える者に対する配慮は、文明国家である以上、当然尽くすべきと述べ、がん対策基本法等の我が国が医療に向ける精神も基礎においています。
- 3 今後に与える影響
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本判決は、行政裁量の法的統制に指針を示した重要判例です。そして、外国人の在留については広範な裁量論を採るマクリーン判決が存在し勝訴判決例は極めて少なかったところ、本判決はガイドラインや国際条約を裁量行使制約の重要な判断要素としました。しかも、国際条約も引用しつつ、国籍を問わない基本的人権の尊重の姿勢を打ち出しています。医療在特は、ガイドラインで難病等で本邦での治療を必要としていることが積極要素とされていたものの限定的に解釈され、勝訴の裁判例はこれまでほとんどなかったものですが、日本のあるべき姿として患者に対する配慮の必要性を明らかにしました。
本判決は、行政裁量、基本的人権や国際条約の尊重、患者に対する配慮の諸点から、極めて意義深い判例と言えます。