海抜マイナス500メートルの研究所を視察して
公害対策・環境保全委員会 委員
小 島 寛 司
- 1 はじめに
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5月29日、公害対策・環境保全委員会の有志メンバーで、岐阜県瑞浪市にある、「瑞浪超深地層研究所」を視察してきました。
今年の9月7日午後1時より、栄ガスビルにて、「高レベル放射性廃棄物」に関する人権大会プレシンポの開催が予定されています。今回の視察は、このプレシンポ開催の準備として、全国に2か所しかない放射性廃棄物の地層埋立に関する研究施設を見学しよう、というのがその趣旨でした。
当日は、まず、職員の方から、ここで何を研究しているか、ということについておおまかな説明を受け、その後、実際に施設内を見せてもらいました。
- 2 研究所内見学
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説明を受けた後、つなぎとヘルメットを装着して、施設を見学しました(ここでは、便宜上、先に見学の様子を紹介することにします)。
私たちが建屋の中に入ると、そこにはとても大きい機械がありました。特注で作った穴を掘るための機械だそうです。
私たちは、地下500メートルまで掘られた縦穴に設置されたエレベーター(工事用のような簡易なエレベーター)に乗って、地下300メートルまで下りました。
そこまで下りると、今度はそこから横に長いトンネルが広がっていました。
地盤を掘り進めると大量の水が出るそうで、実際、今も地盤の割れ目から、水がわき出ている場所がたくさんありました。
トンネルを歩いていくと、所々に、放射性廃棄物の埋め立てに関する研究とは無関係の、他の独立行政法人や大学との共同研究の結果の展示等がありました。
ただ、自分にはこれらが申し訳程度の共同研究のように感じられました。
とはいえ、地下深くの研究所は、空気がシンとしていて独特の雰囲気を感じました。
- 3 研究所の概要説明
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ここで研究をされている職員の方から、スライドを使って、研究の概要説明を受けました。
瑞浪超深地層研究所を所有し、運営しているのは、日本原子力研究開発機構(JAEA)という独立行政法人です(JAEAは、もんじゅでの1万件近い機器の点検漏れや、茨城県東海村の実験施設における放射能漏れ事故などで、最近も話題になりました)。
では、ここでは、一体何が研究されているのか。それは、もちろん、放射性廃棄物の地層処分についてです。放射性廃棄物の地層処分は、現段階では、国際条約に反せず、かつ一番リスクの少ない処理方法とされています。
しかし、よくわからないこともあります。JAEAは、地元住民との協定で、「この研究所を放射性廃棄物の処分場にしない」「放射性廃棄物をこの研究所には持ち込まない」といった約束を結んでいます。つまり、ここで掘った穴に放射性廃棄物を置くことは将来にわたってできないことになっているのです。
ところで、放射性廃棄物を地下で保管するにあたり、その場所の地盤や地下水の水流の調査は必須です。放射性物質を覆い固めるガラス固化体が解けたりすれば、水流に乗って放射性物質が拡散するおそれがありますし、地盤がしっかりしていないと、地震により、ガラス固化体が破壊されるおそれがあるからです。しかも、このリスクは、放射性物質の影響がなくなる数万年後まで考慮されなくてはなりません。しかし、地下の地盤や水流というのは、当然ですが、その場所毎に異なります。
そうすると、こんな疑問にぶつかります。「放射性廃棄物を埋められない場所に穴を掘って安全か調べても仕方ないのではないか?この研究所は一体何を研究しているのか?」
この答えは、「調査技術の向上研究」ということのようです。つまり、まず、穴を掘る前にボーリング等で調査してみる。それから穴を掘ってみて、もう一度詳しく調査する。すると、事前の調査が正しかったのか、また事前調査の問題点が明らかになる。これにより、調査技術が向上する、ということのようです。…わかったようでよくわかりません。いずれにしろ、「調査技術の向上」のためだけに、膨大な国家予算が投入されている現状には疑問を感じざるを得ませんでした。
- 4 最後に
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高レベル放射性廃棄物の処理は、原発をやめるにしろ、続けるにしろ、必ず考えなくてはならない問題です。しかし、日本においては、最終処分場の候補地すら決まっていない状況です。私には、国の方針もしっかり定まらないまま放置されて、行く先を見失っているのが、この瑞浪の超深地層研究所のように思えてしまいました。
【右が説明を受けた研究所・左が縦穴を覆っている建屋】