会報「SOPHIA」 平成25年5月号より

別表

自民党憲法改正草案のポイント

 

前   文

「政府の行為によつて再び戦争の惨禍が起きることのないやうにすることを決意し」、「この憲法を確定する」(不戦の決意)や「われらは、全世界の国民が、ひとしく恐怖と欠乏から免れ、平和のうちに生存する権利」(平和的生存権)等を削除し、ほぼ全面的に改定。

「国と郷土を誇りと気概を持って自ら守る」こと、「和を尊び、家族や社会全体が互いに助け合って国家を形成する」と国民の責務を明記。

「日本国民は、良き伝統と我々の国家を末永く子孫に継承するため、ここに、憲法を制定する」として、「天皇を戴く国家」の継承を憲法制定の目的にする。



天 皇 制

天皇は日本国の元首であることを明記(1条)。「内閣の助言と承認」を内閣の「進言」に訂正(6条4項)。天皇の国事行為の限定列挙を改め、「国又は地方自治体その他の公共団体が主催する式典への出席その他の公的な行為を行う」との規定を挿入。


国歌・国旗

「国旗は日章旗とし、国歌は君が代とする」(3条1項)「日本国民は、国旗及び国歌を尊重しなければならない」(3条2項)。



9   条

「我が国の平和と独立並びに国及び国民の安全を確保するため、内閣総理大臣を最高指揮官とする国防軍を保持する」(9条の2 1項)

国防軍は、1項の任務の外、「国際社会の平和と安全を確保するために国際的に協調して行われる活動」「公の秩序を維持し、又は国民の生命若しくは自由を守るための活動」を行う(同条3項)。国防軍の組織、統制、機密の保持に関する事項は法律で定める(同条4項)。

国防軍に属する軍人その他の公務員の職務上の罪、機密漏洩に関する罪を裁くための審判所設置(いわゆる軍法会議。同条5項)。


人権総論
  • @ 「全て国民は、人として尊重される」として「個人の尊重」から「人の尊重」に変更(13条)
  • A 憲法97条「この憲法が日本国民に保障する基本的人権は、人類の多年にわたる自由獲得の努力の成果であつて、これらの権利は、過去幾多の試練に堪へ、現在及び将来の国民に対し、侵すことのできない永久の権利として信託されたものである」を削除。
  • B 「公共の福祉」を「公益及び公の秩序」に変更。例:13条「生命、自由及び幸福追求に対する国民の権利については、公益及び公の秩序に反しない限り」最大限に尊重される。

表現の自由

「前項の規定にかかわらず、公益及び公の秩序を害することを目的とした活動を行い、並びにそれを目的として結社をすることは認められない」(21条2項)



新しい人権規定
  • @ 19条の2「何人も、個人に関する情報を不当に取得し、保有し、又は利用してはならない」
  • A 21条の2「国は、国政上の行為につき国民に説明する義務を負う」(「知る権利」ではなく国の説明義務に)
  • B 25条の2「国は、国民と協力して、国民が良好な環境を享受することができるようにその保全に努めなければならない」(環境権ではなく環境保全の努力義務)

家   族

「家族は、社会の自然かつ基礎的な単位として、尊重される。家族は互いに助け合わなければならない」(24条1項)。社会保障における自立自助、家族の助け合いの強調による社会保障費抑制が目的と指摘されている。


地方自治
  • @ 「住民は、その属する地方自治体の役務の提供を等しく受ける権利を有し、その負担を公平に分担する義務を負う」(92条2項)。社会保障、教育等に要する費用は住民負担を原則に。
  • A 「地方自治体は、基礎地方自治体及びこれを包括する広域地方自治体とすることを基本」とする(93条1項)。道州制へ。
  • B 「国及び地方公共団体は、法律の定める役割分担を踏まえ、協力しなければならない」(93条3項)。国の役割は防衛・外交・通商・通貨管理等に限定し、教育・福祉等は自治体の役割に。

緊急事態

「内閣総理大臣は、我が国に対する外部からの武力攻撃、内乱等による社会秩序の混乱、地震等による大規模な自然災害その他」の「緊急事態」に緊急事態の宣言を発する(98条)。緊急事態の場合には、「何人も」国その他公の機関の指示に従わなければならない」(99条3項)

緊急事態においては、内閣は法律と同一の効力を持つ政令を制定できるほか、内閣総理大臣は財政上の必要な処分ができ、地方自治体の長に対して必要な指示ができる(99条1項)


憲法改正

憲法改正は、衆議院又は参議院の議員の発議により、両議院のそれぞれの総議員の過半数の賛成で国会が議決し、国民に提案され、国民投票で承認を得る。この国民投票は有効投票の過半数の賛成を必要とする(100条1項)



憲法尊重擁護義務

102条1項に「全て国民は、この憲法を尊重しなければならない」として憲法尊重擁護義務の第一義的主体を国民に。102条2項は、国会議員等の憲法尊重擁護義務を規定するが、「天皇又は摂政」を削除。