会報「SOPHIA」 平成25年1月号より

外国人相談シリーズ
改正入管法と「日本人の配偶者等」

人権擁護委員会 国際人権部会 委員
笹 尾 菜穂子

私は、日本人の夫と結婚し、夫との間に子どもを出産して、「日本人の配偶者等」の在留資格(1年)で本邦に滞在しています。この1年弱、夫は、私を殴ったり、性的関係を強要したりしてきました。私は、子どもを連れて夫のもとを離れ、将来的には離婚する決心をしました。

私はこのまま、本邦に在留し続けられるでしょうか?

1.改正入管法と「日本人の配偶者等」

平成21年の入管法改正(一部が平成22年7月1日に施行)により、「日本人の配偶者等」または「永住者の配偶者等」の在留資格で本邦に在留する外国人は、「配偶者の身分を有する者としての活動を継続して6月以上行わないで在留している」場合、これについて「正当な理由」があるときを除いて、在留資格取消しの対象となる(§22の4TF)ことが明文化されました。

なお、従前は、「日本人の配偶者等」の資格該当性要件に配偶者としての活動を必要とするかについて、学説・裁判例の争いがありましたが、最判平成14年10月17日で必要とする判断が出たことで決着しています(民集56・8・1823参照)。


2.「正当な理由」

上記「正当な理由」について、法務省入国管理局では、在留資格の取消しを行わない主な事例を以下のとおり、公表しています(参照)。

  • @ 配偶者からの暴力(いわゆるDV)を理由として、一時的に避難又は保護を必要としている場合
  • A 子供の養育等やむを得ない事情のために配偶者と別居して生活しているが生計を一にしている場合
  • B 本国の親族の傷病等の理由により、再入国許可(みなし再入国許可を含む。)による長期間の出国をしている場合
  • C 離婚調停又は離婚訴訟中の場合

    また、改正入管法では、在留資格の取消しをしようとする場合には、在留資格変更許可申請または永住許可申請の機会を与えるよう配慮されることとなっています(§22の5)。そして、配偶者の身分を有する者としての活動を継続して6ヶ月以上行わないで在留している場合であっても、日本国籍を有する実子を監護養育している等の事情がある場合には、他の在留資格への変更が認められる場合があります(参照)。

    更に、従前より、DV被害者から、在留期間更新申請があった場合は、個々の事情を考慮した上で、継続して在留を認めることとしてきました(平成22年版男女共同参画白書、第2部8章2節参照)。

    本件において、あなたが子どもを連れて夫のもとを離れた場合、また、その後、離婚の手続に入った場合には、在留資格取消しの対象とはならないでしょう。また、在留も認められると見込まれます。


3.改正入管法と住居地の届出

なお、改正入管法においては、90日以内に住居地の届出をしない場合、「正当な理由」があるときを除いて、在留資格取り消しの対象となります(§22の4TG,H参照)。もっとも、DVを理由として避難または保護を必要としている場合は、「正当な理由」にあたるものとされています。