会報「SOPHIA」 平成24年11月号より

子どもの事件の現場から(115)

「可塑性」ってこういうことなんだ!
−やることいっぱいやりがいいっぱい初めての少年事件−

 

会員 児 島 貴 子


1 事案の概要

本件は、自転車で通行人の女性の背後からカバンをひったくろうとした窃盗未遂2件、深夜の侵入盗1件、原付の窃盗未遂1件です。いずれも共犯事件で、いわゆる不良グループの仲間たちで悪いことを繰り返している不登校状態の14歳少年で、ひったくりと侵入盗は、いずれも仲間に誘われての犯行でした。

新人研修として、景山智也会員の事件を共同受任させていただきました。


2 初回接見

初めての少年事件、どんな気合いの入った子なのだろうと、正直少し恐怖心を抱きつつ接見へ。しかし、いざ会ってみると、笑顔がとてもかわいくまだあどけなさの残る少年で、こちらの質問にも素直に答えてくれました。


3 父母の面談を経て

母親は離婚後少年を引き取るも、少年が中学1年の時、少年と自身の精神病を理由に少年を施設に入れると父親に伝え、父親が引き取ることとなり親権者も変更。少年は中学1年の1学期途中で転校を余儀なくされました。その後、母親は少年との一切の接触を断っており、当初は今後も接触しないと言っていました。父親は、仕事が忙しくてあまり家にいない上、「この時期の子はみんなこうですよね」と問題意識がない様子。親御さんの意識改革を主とする環境調整が必要と感じました。


4 その後のいろいろと少年の変化

父母それぞれの調査官面接への同席、精神科医・中学校の先生・調査官・裁判官面談、父母や祖母とのやりとり等の環境調整や被害者対応を、景山会員と分担しつつバタバタと行いながら、少年との面会を重ねました。

最初の頃、少年は質問に単語で答えることが多く、被害者の気持ちも抽象的にしか答えられませんでした。また、あまり深く考えないままに返答している様子が見られ、仲間から犯罪行為に誘われた際「特に何も考えなかった」という少年の特性を感じました。しかし、被害者へ手紙を書いたり、付添人と話をする中で、少しずつ、自分の頭で考えて言葉を紡ぎ出すようになり、「他人の気持ち」も具体的にイメージできるようになってきました。

さらに、今回の件で、中学1年以来接触がなかった母親が頻繁に鑑別所を訪れ、心の奥に秘めていた「母に捨てられた」との思いを払拭できたようです。また、仕事が忙しい父、祖母、そして中学校の先生3人までもが複数回鑑別所を訪れ、少年は、周りの大人たちがこんなにも自分の事を思ってくれていたことを初めて自覚しました。

そして、自分の頭で考えた被害者の方の気持ちや、今回迷惑と心配をかけてしまった家族・学校の先生等の思いを想像し、表情を引き締め「何も考えずに、本当に申し訳ないことをしてしまった。こんな思いを人にさせてしまうようなことは、もう二度としません。」との言葉が出るまでになりました。

少年と出会ってたった1か月余り、少年の飛躍的な精神的成長を目の当たりにし、少年の『可塑性』という言葉を肌で感じました。


5 おわりに

審判結果は、力及ばず、児童自立支援施設送致でした。しかし、少年は審判前「結果がどうなってもその場所でしっかりやっていきます。」と述べており、審判後、「大丈夫です。頑張ります。」と言ってくれました。その時の清々しい笑顔がとても印象的で、彼の成長を端的に示すあの笑顔は一生忘れられません。