会報「SOPHIA」 平成24年10月号より

人権擁護大会

シンポジウム第3分科会

「豊かな海をとり戻すために」
〜沿岸域の保全・再生のための法制度を考える〜

 

日弁連人権擁護大会シンポジウム第3分科会実行委員
吉 江 仁 子


1 はじめに

本大会が開かれた佐賀県は南北を二つの海(玄界灘と有明海)に挟まれた海の幸豊かな県です。しかし、有明海は97年の諫早干拓を機に水質の悪化が進み、深刻な漁業被害に直面しています。そこで、同県にふさわしいテーマとして本分科会が開催されました。


2 基調報告1:海外の沿岸域保全

まず、実行委員会から、イギリス・フランス両国の調査報告がありました。ここでは、道路を撤去し砂浜を再生しているフランスのトー湖の取り組みや、両国の「統合的沿岸管理」を目指す法制度などが紹介されました。


3 基調報告2:国内の沿岸域保全の課題

続いて、実行委員会から、国内の各地の沿岸域保全の課題が紹介されました。紙幅の都合で紹介は割愛しますが、詳細は基調報告書をご参照下さい。


4 基調講演「生態系サービスを生かす統合政策への転換を」

高山進三重大学教授による基調講演では、生物多様性条約の理念と取り組みと課題の紹介があり、また、江戸時代の日本が生態系サービスの限界という壁を労働力の活用・資源節約によって克服したことが紹介されました。そして、米国カリフォルニア州の二大都市で、いずれも市民の粘り強い運動によって湿地の開発阻止・再湿地化の動きが始まっていることなどの紹介がありました。日本でも、法律が環境への配慮を謳い、現実の政策への反映が始まろうとしているという転換期にある今、市民が自ら主体的に動くことが必要だと呼びかけられました。


5 パネルディスカッション

(1)前半は、「我が国における沿岸域の現状とその保全のための課題」をテーマに、九州大学准教授の清野聡子氏、佐賀県有明海漁業協同組合大浦支所の平方宣清氏、内閣官房海洋政策本部事務局の伊藤和久氏、佐賀県庁くらし環境本部有明海再生・自然環境課の久保順治氏、そして日弁連公害対策環境保全委員会委員長の大木一俊氏からお話を伺いました。内容は、@海洋基本法の制定とその課題、A各地の現状、B諫早湾の現状と対策など多岐にわたりました。

(2)後半は三重県志摩市の事例を中心に、「沿岸域再生のための取り組みとそのための法的課題」について議論しました。

パネリストの交代があり、上記の清野氏、伊藤氏、大木弁護士に、基調報告をされた高山進氏、志摩市農林水産部里海推進室の浦中秀人氏が加って5人で進められました。

三重県志摩市の英虞湾では、江戸時代以降の干拓によって干潟の70%が喪失しました。また、真珠養殖・生活排水による環境悪化も生じました。しかし、漁民が中心となってアコヤ貝の汚れを湾内に残さない試みなどが始まり、2010年には干拓地の一部を干潟に戻しました。干潟に戻した元干拓地では、半年ほどで、顕著に底性生物の個体数が増え始めました。志摩市では、干潟再生・自然保護を基礎にどのように地域おこしをするかについても、諸団体が持ち寄った意見を基に練り上げていること等も紹介されました。


6 最後に
アンケートでは、志摩市の取り組みが好意的に評価されていました。生物多様性の保全・再生は、今や地域規模での急務です。今後、さらに議論が深まり、各地の海が豊かさを取り戻すことを願ってやみません。