会報「SOPHIA」 平成24年10月号より

人権擁護大会

シンポジウム第1分科会

「どうなる どうする日本の教育」
〜子どもたちの尊厳と学習権を確保するための教育の在り方を問う〜

 

日弁連人権擁護大会シンポジウム第1分科会実行委員
福 井 悦 子


第1部 日弁連からの問題提起

いじめ、自殺、校内暴力、不登校…。今、日本の子ども達が抱える問題を聞かない日はない。日本の子どもの幸福度・自己肯定感は世界でも著しく低い。我が国の教育の現状は、国連子どもの権利委員会から、過去3度(1998年、2005年、2010年)にわたり「過度に競争的」と指摘されているが、それを是正するどころか、大阪の橋下教育改革をはじめとして、競争教育は一層強化されようとしている。子ども達の生活時間の大部分を占める学校教育の現場は、今どうなっているのか。教師達はどのような状況に置かれ、それが子ども達の学ぶ権利にどのような影響を及ぼしているのか。

第1分科会は、以上の問題意識のもとに行われた。


第2部 基調講演

講演者は世取山洋介新潟大学准教授で、テーマは「新自由主義教育改革と憲法・教育法」。この「改革」は、その第1段階が1980年代に始まり、2000年末より第2段階に突入した。具体的には常勤教員定数の非常勤への割振り、義務教育費国庫負担の軽減、新教育基本法の成立、学テの再開、免許更新制度の導入、教育職の階層化などの諸政策の展開である。この「改革」が、「主人・代理人理論」=財布の紐を握る主人が、怠け者の代理人=労働者を完全に制御すべきだとの論理に導かれていること、その手法は@スタンダード=学習指導要領等、A評価=学テ、教員評価、学校評価、B競争=学校選択 C賞罰=学校統廃合、昇進であること、その目的が、経済・労働力政策に教育政策を従属させるものであることが明快に説明された。


第3部 現場からの報告・第4部 パネルディスカッション

圧巻だったのは、現場報告と、講演者と現場報告者によるディスカッションである。

紙面の都合上、全部の報告はできないが、基礎的な学力を養うべき小学校低学年時期に詰め込みをするようになった結果、高学年で約5割が落ちこぼれ、中学校に入ると授業についていけない子どもは荒れること。かような状況下で、教師の尻を叩いても「成果」が出るはずはなく、「競争」は無意味なこと。大きな声で「セックス、セックス」と叫んでは黒板いっぱいにおっぱいの絵を書く子どもが、生育環境に遡って向かい合った教師の教育実践の中で、変わっていった事実。給食費が払えない子どもがいれば、市とかけあって生活保護が受けられるようにし、親の勤務先とかけあって滞納家賃を払わせ、「一人の子どもを守る大人をどれだけ多く集めるかが私の仕事」と言い切る校長先生が現実に存在する事実。学力だけを伸ばそうとしても伸びないが、人格のあらゆる側面を発達させるとテストの点はよくなる事実。

これらの報告や発言は、真の教育とは何なのか、学力を伸ばすのに必要なことは何なのかを考えさせてくれた。