会報「SOPHIA」 平成24年9月号より

名古屋商工会議所と共催の中小企業セミナー開催される

 

弁護士業務改革委員会 委員
野  口   新


平成24年9月14日、当会と名古屋商工会議所の共催による中小企業セミナーと無料相談会が同会議所において開催された。例年、全国の単位会とも歩調を合わせこの時期に実施している中小企業経営者向けの催しである。

今年度は、山田洋嗣会員を講師に迎え、「中小企業が知っておくべき労働法実務〜時間外労働に関する諸問題〜」と題して開催された。ほぼ満席(133名)の会場から労務問題に対する参加者の非常に高い関心がうかがえた。

講演は、山田会員の労使紛争に対する豊富な実務経験に基づくもので、法律実務家にとっても大変に役立つ内容が満載であった。

とりわけ、時間外労働に関する紛争において問題となりがちな労働時間該当性(例えば、不活動時間でも、その実態をみると労働からの解放の度合いが低いために労働時間と評価され得る可能性がある場合等)については、限界事例となるべき裁判例を豊富に紹介しながら、具体的な説明がなされた。

時間外労働に関する諸問題についての企業の法的リスクという観点からは、客観的な方法での労働時間の管理、および労働実態の把握の重要性が説明された。

労働時間管理と労働実態の把握を怠っていても、労働者との関係が良好で、長時間労働、時間外労働に関する主張・請求がなされないうちは問題は顕在化しにくいが、ひとたび良好な労使関係が崩れると、労働者から(場合によっては現実とかけ離れた)過大な請求がなされ、企業はそれに対して困難な反証を強いられ、紛争が深刻化する。労働者の実労働時間を証明する資料についても、必ずしもタイムカードないしそれに準じるような客観的資料性が要求されるわけではなく、労働者本人が日々書いたメモ等でも一定の証拠力が認められる場合がある。結局、企業としては、不本意な、実態と離れた過大な請求が認められてしまうリスクを負うことが指摘された。

労働者の労働時間管理が杜撰な企業は、比較的大規模の企業も含めて多いという印象であり、このような法的リスクは、多くの企業に妥当するものと感じられた。

これまで企業は労働時間について労働者の権利意識の低さや情実に甘えてきた、という側面を否定することはできないと思われる。当日の講演は、雇用の流動化が指摘される昨今、企業が、労働者の労働時間について、目先の人件費コストとは比較にならないような深刻な負担を負う可能性があることを、突きつける内容であったとも言える。中小企業にとっては倒産の危険すら孕む法的リスクが、実は今そこにあることを実感させられ、背筋が寒くなる思いで聞かれた参加者もおられたと想像する。

しかし、参加者の多くに、そういった思いを感じていただいたとすれば、「労務管理における潜在的な法的リスクの存在を意識していただく」という本セミナーの趣旨がほぼ達成されたと言えるのではないだろうか。