会報「SOPHIA」 平成24年7月号より

子どもの事件の現場から(112)

2回目の付添人活動

 

子どもの権利委員会 委員
堀 田 泰 成


1 事件の概要

送致事実は、中学生の少年が、被害者である同級生に対して殴打行為等の暴行を加え被害者を畏怖させ数万円を交付させたという恐喝事件でした。しかし、少年と接見して事情を聴取した際に、少年は、被害者からお金の交付を受けたのは数か月の間にそれ以外にもあるものの、被害者は他の少年からも恐喝されておりその恐喝行為を止める御礼としてお金を受領したもので殴打行為については小突いた程度であるとし恐喝行為を否認していました。

2 指導・監護環境の乏しさ

いろいろ話を聞くと、少年の家庭は複雑で、家庭内における監督が不十分な状況であり、また普段の少年の行動が問題視され学校における監督も困難であり、少年を支える指導・監護環境が乏しい状況でした。

3 少年の監護の見込み

少年は勾留後に鑑別所へ移送されましたが、その後も少年と接見、面会を重ねました。   そのようなやりとりの中で、少年が過去に両親に対して反抗したことがなく、今回の件で被害者はもちろんのこと両親に迷惑をかけたことを悔やみ深く反省していたため、家庭内での監護も可能に思われました。両親は、高校進学のことを心配しており少年院送致を避けたい意向が強く感じられました。  また、少年は、歴史小説等の読書が趣味で国語や社会科目においては積極的に学習に取り組んできた事実が分かり、学習意欲が認められました。

4 被害弁償

送致後間もなく被害者の父親と面談しました。その際に、これまで受領したお金を弁償するので被害届の取下げをしていただけないかと依頼したところ、被害届の取下げは断られたものの弁償には応じるとのことでした。そこで、恐喝行為の有無はともかく、いわば用心棒代として同級生から何万円ものお金を受領することは許されないと少年の母親を説得し、後日母親から預かったお金で、被害者の父親に被害弁償しました。その際父親が、加害少年も受験で大切な時期でしょうが、仮に保護観察処分で再び学校に戻った場合に息子がまた被害に遭わないか心配です、と話されたことが印象に残っています。

5 少年の心境の変化

少年は、これまで教師や他の生徒との軋轢から学校で度々粗暴行為に及んでいましたが、逮捕、勾留、そして鑑別所における観護措置という長期の身体拘束を受ける中で、暴力が時には取り返しの付かない事態に発展する可能性や被害者や両親等の関係者に多大な負担を及ぼすことを理解し、二度と同じことは繰り返さないことを誓い、今後は目標を立てて生活することを誓うようになりました。

6 少年審判

審判においては、恐喝行為を認めたうえで被害弁償を行った事実や家庭内での監護が可能であること、学校生活において意欲的に学習に取り組めること、学校の教務主任等の担当教員が可能な限り付き添い再非行を防止する意向であること、少年の心境の変化等を記載した意見書を提出し、その結果、保護観察処分となりました。

7 まとめ

当初受任した際、年齢の割には行為態様が悪質で社会資源に乏しい難しい事案と感じましたが、少年や関係者との対話を重ねると、少しずつ心は変化し、監護環境は変えられるものだな、と感じた事案でした。