会報「SOPHIA」 平成24年7月号より

刑事模擬接見について


 

司法修習委員会 刑弁チーム長
鬼 頭 治 雄


1 刑事模擬接見とは

弁護修習の後半に、合同修習の一つとして、刑事模擬接見が行われる。弁護士会館の各部屋に模擬接見室を作り(ただしアクリル板はない)、修習生と被疑者役弁護士が一対一で、ある事案を前提とした初回の模擬弁護士接見をするのである。これまで指導弁護士の接見を見学するだけであった修習生が、ここでは自ら弁護士役となって被疑者と対面し、法的アドバイスをしなければならない。自分で実際にやってみると、これがなかなか難しいということを実感する。その昔、私も修習生として刑事模擬接見を体験したが、自分自身の無力感に愕然とした覚えがある。しかし、刑事模擬接見の狙いは、まさにそこにある。生きた法律を学ぶという意味において、刑事模擬接見は好適なプログラムであり、当会の弁護修習の伝統的行事である。

2 準備

刑事模擬接見を行うためには、まず、事例、被疑者からの質問事項及び解説を作成しなければならない。事例は、司法修習委員が試行錯誤しながら作る。オリジナル事例もあれば、過去に模擬接見で使われた事例を手直しすることもある。被疑者からの質問事項は、被疑事実に関する質問だけでなく、勤務先との関係や弁護士費用等、難しい質問も多く含まれている。解説は、単なる回答例にとどまらず、実務に役立つ情報が満載であり、近い将来、修習生の手助けとなるように作られている。

被疑者役弁護士の確保も重要課題である。今では各クール約25人、年間約100人の修習生に対応する弁護士が必要である。被疑者役弁護士は、司法修習委員だけでは賄い切れず、刑事弁護委員や指導弁護士の協力を得ているのが現状である。

3 進め方

当日は、まず修習生と弁護士が各部屋に分かれ、一対一で1時間程度の模擬接見をする。その後、被疑者役弁護士が修習生に対し個別に講評する。個別講評が終わると、いくつかの班に分かれてグループ講評を行う。グループ講評では、自分が疑問に感じたところを他の修習生がどのように対応したのかを知ることができ、また、他の被疑者役弁護士の感想を聞くこともでき、有益である。

4 課題(私見)

被疑者弁護にとって、初回の弁護士接見は非常に重要である。刑事弁護に携る全ての弁護士は、このことを実感しなければならない。この点で、刑事模擬接見は、合同修習にふさわしい優れたプログラムといえる。

しかし、わずか2か月の弁護修習の期間中、指導弁護士に刑事弁護を担当する機会がなく、結局、刑事弁護を見ることができなかった修習生もいると聞く。そのような現状で、果たして刑事模擬接見が合同修習としてベストの選択なのかを再検討すべき時期が近づいていると思う。

また、刑事模擬接見は、初回接見において被疑者から事実関係を詳細に聞き取るタイプの弁護活動を前提に制度設計がなされている。しかし、特に否認事件においては、捜査段階全体を見据え、供述調書を取られない弁護戦略を構築し、その中で初回接見をどのように位置づけるかという観点がより重要である。刑事弁護が変わっていく中で、刑事模擬接見も変えていく必要があるように思う。