会報「SOPHIA」 平成24年7月号より

弁倫事例研究・民事模擬法律相談

〜弁倫合宿〜

 

司法修習委員会 弁倫合宿チーム長
中 川 博 晴


  1. 弁倫合宿は、ある金曜日の午後を使って弁護士倫理に関する事例研究と民事模擬法律相談を行う合同修習である。弁護士倫理に関する修習をここまで時間と労力をかけて行う単位会は全国的にみて珍しい。当日のカリキュラムは、@弁倫事例研究、A模擬法律相談、B懇親会である(以下、時間配分は第65期第4クールに従った)。
  2. 弁倫事例研究

    修習生が弁護修習の冒頭修習において与えられた設例に関する弁護士倫理上のレポートを期限までに提出し、その設例について弁倫合宿の前半(午後1時30分から午後2時30分)に修習生と司法修習委員が討論・研修するものである。修習生には設例とともに参考文献として「解説 弁護士職務基本規程」が貸与される。当日の討論は、修習生を2グループ(1グループ約12〜13名)に分けて司会役の弁倫合宿チーム員によって進められる。当チームはこの合宿(弁倫事例研究と後述の模擬法律相談)のためクール毎に3回のチーム会を開いて設例の問題点や修習生のレポートを検討・協議して当日に備える。しかし、弁倫合宿での議論は、予想を超えた議論がなされる時もあれば、期待したレベルの議論に到達しない時もあったりと、様々である。

  3. 模擬法律相談

    弁倫合宿の後半(午後2時40分から午後5時)は、模擬法律相談である。これは修習生が弁護士役に、司法修習委員や指導弁護士が相談者役に扮し、民事の模擬法律相談を行うというものである。相談者役の弁護士には事前に事案の概要が配布され、基本的にその内容に沿った相談をして頂く。相談の中に弁護士倫理の問題がちりばめられている。修習生は、日ごろ見てきた指導弁護士の法律相談を真似て、何とか相談を切り抜けようとする。しかし、思い通りに切り抜けられない。修習生の誰もが恐れるのは、沈黙が続くことと分からない質問を受けることである。修習生は、冷や汗をかきながら相談者の無理な質問に答え、場合によっては低廉な弁護士費用で事件の委任を受けたり、弁護士倫理の網に引っ掛かる。弁護士になってからも法律相談に苦しんでいる私は、修習生の振る舞いに妙な親近感を覚えてしまう。「法律相談はとても難しいんだぞ!」ということを修習生に分かってもらえれば、準備したチーム員の努力も報われる。相談が終わると、相談者役の弁護士から修習生に個別講評がなされる。そして、最後に再び2グループに戻って全体の講評や感想などが交換され、模擬法律相談は終了する。修習生は、個別講評と全体講評によって自分の考え方、弁護士の手法、他の修習生の考え方を知ることができる。

  4. 懇親会

    弁倫合宿のもう一つのイベントは懇親会である。修習生は任意参加であるが、出席率は毎回ほぼ100%で、修習生と弁護士が時間を忘れて語り合い、酒席は毎回3次会、4次会へと続く。

  5. 最後に

    弁倫合宿のカリキュラムは、実務修習で行って初めて効果が上がるものである。言い換えれば、修習生に実務の難しさや恐ろしさを体感させるには、弁倫合宿はもってこいのカリキュラムである。

    しかし、課題もある。その一つが模擬法律相談での相談者役の確保である。模擬法律相談は、修習生一人に一人の相談者を充てるのが望ましいが、相談者役弁護士の人数が不足し、第65期では第4クールを除いて複数の修習生を一組にして一人の相談者を充てざるを得なかった。弁護修習が4クール制になり、司法修習委員の負担が増大している現状において、非常に悩ましい問題である。