緊急シンポジウム「自由な社会のために」
〜秘密保全法を阻止しよう〜
国民の秘密を踏みにじって国家秘密が残される
情報問題対策委員会 委員
早 川 真 一
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1 「国家の嘘と国民の嘘を平等に扱うのは間違いである。」−佐高信さんは、講演で力強く言われました。「不平等なものを平等に扱うのは全く平等ではない。」と。自らの間違い(大罪)は覆い隠し、国民の間違い(小罪)は許さない国の姿勢を鋭く指摘されました。
佐高さんは、こうも言われました。彼の見聞した官僚中の官僚の発言「『国民に網をかけたい』という言葉ほど、官僚の正直な本音を晒したものはない。」と。なるほど、網で捕まえておけば、@国民は、身動きが取れず国家や官僚に攻撃(批判)はできませんし、逆に、A官僚は、その国民を難なく袋だたきにもできるでしょう。さしずめ、@が秘密保全法(官僚の不利益情報への国民アクセス遮断)、Aがマイナンバー法(国民の秘密の名寄せ・根こそぎ取得とバッシング利用)に相当するのかもしれません。国民統制のための車の両輪でしょうか。
日本の国家権力だけは、かつて何も間違いがなかった、とでも言いたいのでしょうか。秘密保全法は、「民は由らしむべし、知らしむべからず。」の平成版です。また、「国家は国民を監督擁護するいわば親の役割。我が子を悪いようにはしない。」―日本だけは、かつて国民を『虐待・食い物』にすることがまったくなかった、とでも言いたいのでしょうか(マイナンバー法)。 2 6月9日、「自由な社会のために」と銘打った、秘密保全法反対のための緊急シンポジウム=佐高さんの基調講演(第一部)とパネルディスカッション(第二部)が、愛知大学車道校舎で行われました。天気がすぐれず、我々スタッフの心配をもよそに、大講堂が満席にも届きそうな250名程の市民が結集くださいました。何より二部構成中、退席者が殆どなく、3時間真剣に聴いてくださいました―内容に不明や不満がある際にありがちなざわつきすらなく。我々の希いは、会場中で共有・共鳴できたと思われます。
3 第一部は、佐高さんの基調講演でした。彼は、面白おかしく語られましたが、簡潔にして要を得ており、しかも実に味のある名講演でした。
「国家は、自分達の施策を非難する者には必ず税務査察等の嫌がらせをしてくる。」
「国家は、国民には、『嘘をつくな』『逃げるな』と道徳を持ちかけては支配を及ぼそうとする。西山記者事件も、国家の大嘘の問題が一人の記者の道徳の問題にすり替えられ、世論がトーンダウンさせられた。むしろそこから、国家の大罪を詳らかにしていかねばならなかったのに。」
「許されないのは、個人の嘘ではなく、国家の嘘だ。」
「日本人は、真面目な会社人間が多く、家族ぐるみで会社を信じ護ろうとするが、そのまま国家を正しいと信じて疑わない危険がある。しかも、人の良い方は、どれ程悪い人に対しても、自分と等身大に見てしまい、その悪さを過小評価してしまう。」
「個人情報保護法も、建前はともかく、結局、国家の罪を隠蔽する方向に流れた。国家が一般論やきれい事を言っても、具体的な場面では必ずそうなる。」4 第二部は、佐高さん、田島泰彦さん(上智大学教授)、清水勉さん(日弁連情報問題対策委員会委員長)のパネルディスカッションでした(進行は新海聡会員)。秘密保全法によって危殆にさらされる国民の知る権利を中心に、メディア、情報公開、官僚体質等についても併せ、討議がなされました。
パネリストの発言の一端をご紹介します。
「この法案の捕捉範囲は極めて広範囲、特別秘密と通常の情報と合わさった情報も特別秘密になり、道徳の領域にまで拡大される。適正評価制度は、当人のほか、周囲のプライバシー侵害をなす。この法案は、主に警察主導で推進されている。今や新聞のスポンサーは役所であり、この法案に反対できない。官僚は元々秘匿体質。情報公開法の改正案も、この秘密保全法という別の手で、結局全面否定だ。」
「この法案を断念することはあり得ない。国の秘密を護る法律は既に多くあり、この法案はその加重拡大を一層推進するもの。取材源への接近が処罰され、メディアの国民の知る権利への貢献は喪失し、民主主義は重大な危機―つまり記者クラブ制等で既に衰えたメディアの機能を一層減殺する。官僚は、自らの不利益情報を隠したいために、レアで些末な事例を引き合いにして、秘密の漏洩は国の一大危機と大喧伝して、情報一般の不開示を正当化する。」
「西山事件の再評価が今必要。国は、本来暴かれるべき秘密を護ろうとしているだけ。とかく法律は、制定前の弁明に反し、一度できてしまうと必ず一人歩きして国民を縛る。メディアは、今や政府と同様、国民を管理する側に立つ間違いを犯すようになった。東電(や国)は競争がないから情報が出ない。役人は、『役』に逃げ込みたい匿名社会であり、情報公開に反対するのだ。」
パネリストの議論は、時間を追うごとに熱く、深くなっていきました。-
5 最後に挨拶に立った内河惠一会員は、佐高さんには哲学を教わったようだと締めくくられました。
私の場合は、加えて、憲法の講義(基礎編)までも受けたような気がします。 「国民の秘密を踏みにじって国家秘密が残される。」「国の壁を低くして世界を一つにすることが今必要なのに、高くする間違いを日本はしようとしている。」
(佐高信さんの言葉)