会報「SOPHIA」 平成24年4月号より

子どもの事件の現場から(110)

大人なんてきらい 〜14歳の少女の抗告事件に想う〜



 

会員 多  田   元



当番弁護士が14歳少年と接見したが受任せずの報告があったので、少年に附添人選任意思を再確認するために面接したのが、彼女との出会いとなった。当番弁護士は接見後、母親に電話をしたら、弁護士などいらないと怒鳴りつけられたという。私はそれを聞いて、背景に虐待があるとの予感が浮かんだ。女性を含む4人で附添人についた。

初回面接時、附添人の役割を説明し、親の同意なしでもあなた自身の意思で附添人を選任できると話すと、彼女はじっと私の目を見て「半端なかかわりをしない?」と問い詰めた。もちろん、あなたを応援できることはしたいと答えて選任してもらうことができた。

非行事実はぐ犯で、中2の夏休み前に家出して約2ヶ月の間に先輩などの家を転々として風俗店で働くうち、怖い先輩が指示した用件のため自転車1台を盗み警察官に補導されたが、母親が引き取りを拒否し、児童相談所へ身柄通告され、即日家裁へぐ犯送致されて観護措置となった。この自転車窃盗以外に非行歴はない。初回面接で、彼女は幼いとき父母が離婚、実母からの激しい虐待(身体的、ネグレクト、心理的虐待)を話した。初回から3日間連続で面接を続け、2回目面接時に彼女は母とその内夫が出てくる怖い夢をよく見ると、その一部を話した。3日目の面接で、私は「昨日の夢の話が気になって、私の夢にあなたの夢が出てくるくらいだった」と話すと、彼女は小学校時代からの内夫の性的虐待を話してくれた。小学校6年時に養護教諭にその被害を打ち明け、学校が名古屋市児相に通告して一時保護されたが、母の要求により担当児童福祉司が彼女を母に面会させ、職員が席を外した際に母から「家に帰ると言え」と迫られ、帰ると言ったら、一時保護が解除されて自宅へ戻されたのである。その後、家庭で母には「お前が悪い」と責められ、内夫の性的虐待は続き、耐えきれなくなった中2の夏休み前に彼女は家出した。いま、名東区の中2虐待死が話題であるが、子どもの視点に立たない市児相のケースワークの問題の構造は同じに見える。

審判では、彼女は母と児相職員の同席を拒否し、担当調査官にも反発し、調査面接でも気持ちを語らなかったので、裁判官は、附添人だけの同席とし、附添人が中心になって生活史を質問する方式をとった。附添人は福井県の「はぐるまの家」への補導委託を提案し、彼女も同意したが、児相と調査官、少年鑑別所は国立児童自立支援施設「きぬ川学院」送致の意見で、決定も2年間に90日まで強制的措置を許可し、同施設送致とした。

彼女は抗告を希望したので、彼女自身にもわかりやすい口語体で漢字にはルビをふった抗告申立書を作成し、コピーをきぬ川学院の彼女に送って励ました。きぬ川学院には2回面会に行き、2回目は「はぐるまの家」の坂岡嘉代子さんに同行、面会してもらった。約2ヶ月後、名古屋高裁は保護処分は著しく不当と認め、「はぐるまの家」に補導委託が相当として原決定を取り消し、差戻審の審判により彼女は「はぐるまの家」に補導委託となった。彼女は、少年鑑別所の日記に「大人なんてきらい。本当に悩み苦しんでいるときには気づかないし、気づいても何もしてくれない。放っておいてほしいとき、ひとりにしてほしいときには、いやになるくらい、からんでくるのに。」と書いた。しかし、高裁の決定は、「じっくり関わりを持とうとしてくれる大人の誠実な姿勢に優しさや愛着を感じ、それに応えたいという気持ちを持つことができるという一面を有する」と認めた。その後もドラマチックな展開があったが別の機会に譲る。彼女は一児の母となったいまも坂岡嘉代子さんを「お母さん」と慕っている。