会報「SOPHIA」 平成24年3月号より

今、刑務所ではどんな処遇がされているか

連続勉強会 第U期第2回開催される



 

刑事処遇に関する特別委員会 委員
川 本 一 郎

  1. 2月21日、当委員会主催の連続勉強会「今、刑務所ではどんな処遇がされているか」の第U期第2回が、名古屋刑務所の職員3名をお招きして開催されました。
     今期の勉強会では、特に現場で直接処遇に携わっている職員の方からお話を伺うことを重視しており、今回お話を伺った3名も、名古屋刑務所で実施されている、「職業訓練」「薬物改善指導」「社会復帰困難者への支援」の3つについて、それぞれ担当として現場で活動しておられる方々です。

  2. 「職業訓練」は、過去にも懲役刑受刑者に対する刑務作業の一種として実施されていたものですが、法改正以降、受刑者の勤労意欲を高め社会復帰を促すため正規の職業訓練として行うことができるようになったものです。名古屋刑務所では、建設関係やビル管理などの資格や重機などの免許取得を目標として、定員50名程度に対し法律上の職業訓練を実施しているほか、従来のような刑務作業の一種としての広義の職業訓練も引き続き行っており、いずれもなるべく社会に出たとき有用な活用ができる、役に立ちそうな技術を身につけられるように工夫しているとのことでした。また、受刑者には、技術や資格があってもコミュニケーション能力に問題があって仕事が続かない者も多くおり、そういった問題への対応として、面接の練習や職場での挨拶の仕方などの支援までも行っているとのことでした。ただ、職業訓練には一定の期間が必要であるため、残刑期の関係で受けられない場合もあるということでした。


  3. 「薬物改善指導」も、法改正により行われるようになったもので、対象者全員に対して行う一般改善指導と、一定の者を対象に行う特別改善指導とがあります。今回は、そのうち特別改善指導について詳しくお聞きすることができました。具体的には、指導は認知行動療法に基づいて行われており、刑務所の法務教官だけでなく臨床心理士も必ず指導にあたり、また医師やダルクなどの外部の自助団体にも協力してもらっているということでした。指導は8名からなるグループワークで全12回実施され、自ら薬物への対応を考えさせ、正しい認知に気づかせることを目標に行われているとのことでした。ただ、薬物犯罪による対象者は名古屋刑務所だけで年間約400名もいるのに、認知行動療法による特別改善指導ができるのは、その性質上、読み書きなど一定以上の能力があり、かつグループでの集団生活ができる者だけであり、年間50名程度にとどまるとのことでした。


  4. 「社会復帰困難者への支援」とは、知的障害などのために出所後の社会復帰が困難であると認められる者を、再犯防止のため及び福祉的観点から支援するというものです。受刑者本人に対する支援だけでなく、社会復帰のための環境調整までもやらなくてはならないという、それ自体が大変困難な処遇であるように思えますが、名古屋刑務所では、刑務官だけでなく社会福祉士や精神保健福祉士、臨床心理士が参加し、専門的技術をもって支援にあたっており、出所の半年前の段階から対象者毎の疾病歴などの個別の事情を確認しつつ、出所後に病院や社会内の支援施設など、具体的な外部の支援者にバトンタッチするところまで行っているということです。また、出所後に生活保護を受けられるよう申請することなども行っているとのことでした。ただ実績は、昨年で数十名程度にとどまっており、実質的な社会復帰困難者ともいえる高齢受刑者の大多数にはそこまでの支援はできていないとの問題も指摘されていました。