子どもの事件の現場から(109)
少年事件の抗告申立
会員 高 橋 直 紹
少年事件で抗告してもなかなか通りません。しかし、抗告申立する意味は単に認められるか否かだけではないと思います。それを実感した事件の報告です(随分前の事件です)。
保護観察処分後1か月の間に万引きを6件行った19歳少年を前件に引き続き担当したケースです。鑑別所技官、調査官の意見は少年院送致でした。しかし、少年を自分の子どもとして引き取り関わりたいと申し出る人が現れ、虐待が背景にある少年には本当に救われる流れになったこともあり、私としては自信の保護観察意見でした。しかし、審判では始めから少年院送致が当然の流れでした。
決定言渡し直前、裁判官は、一旦休廷して調査官と私を入れて協議をすると言い出しました。別部屋に入ると、特に議論はなく、裁判官は私の主張を簡単に確認し、自分の意見は変わらない旨話し打ち切ろうとしました。私は、形だけ協議の体裁を取るのは、少年に変に期待をさせるだけだと強く反発しました。しかし、そのまま審判は再開されました。
裁判官は審判廷に戻り、少年に対し少年院送致を言い渡しましたが、決定の理由も言わずに閉廷しようとしました。私がその理由を少年に説明して欲しい旨言ったところ、裁判官は書面で書くと答えました。「これは少年の審判なのですから、彼に納得できるよう説明して下さい」との私の言葉に、「再犯の可能性、常習性」と小声で言って出て行きました。当然、少年は納得できません。
私が感情的になったことで、納得の場でもある審判がこんな形で終わってしまったとの反省も込め、少年事件のML(メーリングリスト)に報告しました。MLで沢山アドバイスやメッセージを頂戴しました。少年と相談して抗告申立を行いました。少年には抗告の難しさは伝えました。それでも、納得できないことは主張しようということになりました。
数日後、抗告申立の結果が出ました。案の定、棄却でした。しかし、保護処分の決定の言渡しの際の裁判官の対応については、「決定に影響を及ぼすほどの著しい法令違反」とまでは言えないものの、「決定告知の方法は必ずしも適切妥当なものであったとはいい難い面がある」と認定してくれました。
抗告審の決定では「少年院送致の保護処分の決定は、裁判長(裁判官)が審判期日において言い渡されなければならず(少年法24条1項3号、少年審判規則3条1項1号)、保護処分の決定を言い渡す場合には、少年及び保護者に対し、保護処分の趣旨を懇切に説明し、これを充分に理解させるようにしなければならない(同規則35条1項)が、その言渡しは決定書に基づく必要はないとされている。ところで、少年に決定を言い渡し、上記規定に基づいて、保護処分の趣旨を説明する場合には、どうして少年をその保護処分にしたのか、その処遇選択の理由についても分かりやすく説明することが望ましいものと解される。保護処分の趣旨を懇切に説明し、これを充分に理解させるようにするのは、単に制度の説明にとどまらず、これによって、少年はもとより、保護者、関係者らに対し裁判所の意のあるところを十分に伝え、これからの保護処分の執行が円滑に行われることを可能とするためであるが、そのためには、その保護処分を選択した理由の適切な説示は不可欠と思われるからである。」と書かれていました。
結論(棄却)は想定内でしたが、あの訴訟指揮が問題であったと認めてくれたことは意外でした。少年も納得でした。
原審のような審判がなされることはもうないと思いますが、こういう形で、抗告したことが少年の納得に繋がることもあるのですね。