会報「SOPHIA」 平成24年2月号より

今、刑務所ではどんな処遇がされているか

連続勉強会 第U期第1回


医療刑務所、更生保護施設の現場から



 

刑事処遇に関する特別委員会

委員 加 藤 美 代

1 刑事弁護を行う時、刑務所での実態を知っていると、被疑者・被告人の不安解消に役立てたり、更生を助けたりすることができるのではないかと考えます。そこで、当委員会では、行刑の現場でどのような処遇が行われているのか、現場で実務を担当している方々から現場の実情を話していただくことにしました。第1回は、岡崎医療刑務所から所長の河田晃氏を、更生保護施設である岡崎自啓会から施設長の水野文雄氏をお招きしました。

2 岡崎医療刑務所での処遇

(1) 河田氏は、精神科の医師であり、専門の精神疾患を中心にお話を伺いました。
 平成18年頃から受刑者数は減少しているものの、平成20年頃から精神疾患のある受刑者数は逆に増加しているそうです。また、精神疾患のある受刑者は、そもそも長期受刑者が多い上、ほとんどが満期出所なので、受刑期間が長くなる傾向にあるそうです。現場の感覚としては、受刑者の十数%は何らかの精神疾患を持っているといって間違いがないとのことです。

(2) 我が国の矯正医療は、外部医療機関の協力を得て完結する仕組みになっています。しかし、精神疾患の場合、病院移送が困難であり、重症であればあるほど矯正施設内で治療しなければならず、特に外部の病院に入院することはほぼ不可能だとのことでした。入院時には、受刑者に対し矯正施設から付添いが付きますが、精神科の医療機関では付添入院を受け入れられないそうです。

(3) 矯正医療としての精神医療は、通常の治療と何ら変わるところはないのですが、矯正医療では雑居室はなく、精神病院では勧められている患者(受刑者)同士の雑談がないことが異なっています。

(4) 出所時の保護と治療は、2年ほど前から社会福祉士を配置しているとのことでしたが、途に着いたばかりのようでした。


3 更生保護施設 岡崎自啓会

(1) 更生施設は、犯罪・非行を犯した人で住居がない人たちを宿泊させ、食事の提供、就職の援助、生活指導その他の保護を行い、再び犯罪を犯さないように導くことを仕事としています。
 岡崎自啓会は、明治34年創立の愛知慈恵会三河支部に由来し、昭和15年に現在の名称として独立しました。現在、更生保護法人となっています。

(2) 対象者は、保護観察を受けている人、更生緊急保護の対象になる人、刑の執行猶予や起訴猶予の処分を受けた人です。収容定員32名のうち、多くは、仮釈放を受けている者、仮釈放から期間満了となってから法定期間(6ヶ月以内)内で自立のために在所している者だそうです。

(3) 岡崎自啓会は、覚醒剤による薬物疾患のある人でも、職員暴行を繰り返すなどの粗暴傾向がなければ入所を受け入れているそうです。しかし、薬物疾患、精神疾患のある人を受け入れると、その対応に追われるので、他の入所者や近隣への影響を考えざるをえないのが実情だと話されていました。

(4) しかし、薬物疾患の人を受け入れても、岡崎自啓会を出た後までの、矯正処遇機関と保護機関の横断的なプログラムがないことが大きな問題だと指摘されていました。


4 河田氏も水野氏も、質問にも丁寧に答えて下さり、とても興味深いお話を伺うことができました。