ためになる実務 特許法等の改正について
司法制度調査委員会 委員
高 橋 恭 司
平成23年特許法等の改正が平成24年4月1日から施行される予定です。概要は以下のとおりです。
1 通常実施権等の対抗制度の見直し(1)当然対抗制度の導入
現行制度では通常実施権を第三者に対抗するためには特許庁への登録が必要です。しかし、通常実施権の登録は、共同申請主義であることやコスト面の問題からほとんど利用されていません。そこで、本改正により、当然対抗制度が導入されました。当然対抗制度は、仮通常実施権へも導入されます。また、施行前通常実施権の施行後譲渡へも適用されます。なお、実用新案法・意匠法についても、仮通常実施権制度が創設されます。
(2)通常実施権等登録制度の廃止とこれに伴う措置
当然対抗制度の導入により通常実施権および仮通常実施権の登録制度が不要となるため、これらの登録制度が廃止されます。また、通常実施権または仮通常実施権の登録制度を前提とした規定の整理が行われます。
(3)実務上の注意
通常実施権の「登録」は実務上少なかったですが、通常実施権の「設定」は珍しいことではありません。また、特許訴訟を扱わない弁護士でも、M&Aや破産管財等、特許権を有する企業の関連する事件に関わることはあるかと思います。今回の改正により、公示なき対抗力が認められるため、依頼者が予期せぬ損害を被らないよう、契約書のチェックでは、保証条項を入れる等の注意が必要となります。また、紛争を見据えた場合、契約日付(通常実施権の対抗力の有無に直結する)の信用性を担保するために、通常実施権が関連する契約書の作成においては確定日付の取得が望ましいと思われます。また、保証条項を入れる前提としてライセンス管理を緻密に行うよう顧問先等に注意を促すことも必要になるかと思います。
2 冒認出願等にかかる救済措置の整備
(1)移転制度の創設
現行制度では、冒認出願(無権利者による出願)等をされた真の権利者は、当該特許を無効にすることはできますが、特許権を取り戻すための制度や確立した判例はなく、また、新規性喪失の例外の利用には期間制限があるため、真の権利者の救済が不十分となっていました。そこで、冒認出願等について特許された場合には、真の権利者は、自ら出願していたか否かにかかわらず、特許を受ける権利を有することに基づいて、冒認等にかかる特許権の特許権者に対して、特許権(共同出願違反の場合には、その持分)の移転を請求できることとなりました。移転請求権の行使により特許権の移転の登録がされた場合、当該特許権は初めから真の権利者に帰属していたものとみなされます。実用新案法・意匠法についても同様の改正がなされました。
(2)冒認等の無効理由および無効の抗弁に関する制度整備
特許無効審判は誰でも請求できますが、冒認等を理由とする特許無効審判の請求人適格は真の権利者に限定されます。実用新案法・意匠法についても同様の改正があります。
(3)冒認者等から実施権の設定を受けた者等の保護
冒認等であることを知らずに、冒認者等から特許権を譲り受けてまたは専用実施権もしくは通常実施権の設定・許諾を受けて、当該発明の実施またはその準備をしている者がいる場合、これらの者については、その実施または準備をしている発明および事業の目的の範囲内において、真の権利者に移転された特許権について通常実施権を有することとされました。他方、真の権利者は、当該通常実施権者から相当の対価を受ける権利を有します。実用新案法・意匠法についても同様です。
3 審決取消訴訟提起後の訂正審判の請求の禁止
現行制度では、特許無効審判の審決取消訴訟の提起後に訂正審判が請求され、裁判所が実体判断をすることなく事件を特許庁に差し戻すことがあります。その結果、裁判所と特許庁との間で事件が単に往復するキャッチボール現象が生じています。他方、特許権者にとって審決取消訴訟提起後の訂正審判は、無効審判の判断を検討した上で訂正ができるという利点があります。そこで、審決取消訴訟提起後の訂正審判の請求を禁止するとともに、特許無効審判において事件が審決をするのに熟した時点で審判合議体による判断を開示する手続(審決の予告)を創設し、これを踏まえて訂正を行う機会を与えることとされました。
4 再審の訴え等における主張の制限
特許侵害訴訟においては、特許法104条の3に基づき侵害訴訟等において特許の有効性・範囲についても攻撃・防御を尽くすことが可能であることから、紛争の蒸し返しを防ぐため、侵害訴訟等の当事者であった者は、当該侵害訴訟等の判決確定後に特許を無効にすべき旨の審決等が確定したことを、再審において主張できないこととなりました。
5 審決確定範囲等にかかる規定の整備
近時の判例理論を取り入れ、多項制下での特許無効審判における訂正の許否判断および審決の確定を請求項ごとに行うための制度が明文化されました。
6 無効審判の確定審決の第三者効の廃止
現行制度では、特許無効審判または延長登録無効審判の確定審決の登録があると、何人も同一の事実および同一の証拠に基づく審判の請求をすることができませんが、同一の事実及び同一の証拠に基づく審判請求であっても、審判請求人が異なれば、その主張立証の巧拙によって結論が変わり得る可能性が否定しきれません。そこで、特許無効審判等の確定審決の効力のうち、第三者に対する効力については、これを廃止することとされました。実用新案法・意匠法・商標法も同様です。
7 料金制度の見直し
(1)中小企業等減免制度の見直し
@ 特許料の減免期間の延長
A 減免における職務発明要件・予約承継要件の廃止
B 減免対象者の拡大(資力に乏しい者として政令で定める要件に該当する者→資力を考慮して政令で定める要件に該当する者)
(2)意匠登録料の見直し
ロングライフデザインの保護を促進するため11年目以降の意匠登録料が減額されることになりました。
(3)国際出願にかかる手数料の見直し
8 発明の新規性喪失例外規定等の見直し
(1)発明の新規性喪失の例外規定の見直し
例外適用事由が拡大されました。意匠法、実用新案法も同様です。
(2)商標法における博覧会指定制度の廃止
該当博覧会について、「特許庁長官の個別指定」から、「一定の基準に適合する」博覧会とされました。
9 出願人・特許権者の救済手続の見直し
手続期間徒過の救済について、特許法条約、欧米の特許制度にならい手続を緩和しました。
10 商標権消滅後1年間の登録排除規定の廃止
早期権利取得のニーズに応えるために、商標権消滅後1年間の登録排除規定が廃止されます。