支部だより
西三河支部「法の日」記念行事報告
がれきの中の希望
−復興の物語の共有に向けて−
東三河支部 会員
井 上 洋 一
1 はじめに
11月12日(土)、豊田市福祉センターにおいて、「被災地の『希望』をどうかなえるか〜いま、私たちができること〜」のテーマで「法の日」記念行事が開催された(併せて無料法律相談会も実施)。
2 第1部・前田拓馬弁護士の報告
第1部は、仙台弁護士会の前田拓馬弁護士による東日本大震災被災地の現状報告が行われた。
前田弁護士は、被災地の物資不足は4月中旬には解消し、9、10月で仮設住宅も一応完成したことから、日々の生活は平穏を取り戻しつつあることを報告した。
しかし一方で、現在の被災地は、個人の善意や地域の努力だけでは限界のある、マクロな復興計画に係る問題に直面しているという。
前田弁護士は、放射能汚染に怯える日本社会と、進まないがれき撤去・風評被害の事例を挙げ、被災地の抱えるジレンマを説明した。
最後に、前田弁護士は、旅館業や飲食業、交通手段も復旧しているので、被災地に旅行に来て、ぜひ被災の実態を見てもらいたいことを訴え、報告を終えた。
3 第2部・宇野重規教授の講演
第2部は、「希望学」という新たな学問の研究で数年前から岩手県釜石市に通ってきた、東京大学の宇野教授による講演が行われた。
宇野教授によれば、釜石は、三大災害(明治29年・昭和8年の大津波、昭和20年の艦砲射撃)や戦後の製鉄所の合理化からも復興を遂げてきた、挫折経験の多い町であるとのことである。
このような歴史を有する釜石の調査研究を行う中で、宇野教授は、希望が生まれる意外なメカニズムを解き明かす。すなわち、希望は、過去の挫折を克服していく経験を他者と共にすること、復興の物語を社会で共有することの中で涵養されるのである。
いま、釜石の希望は震災により再び失われ、被災地は絶望に覆われているように見える。宇野教授は、復興の物語を日本社会全体で共有し、被災地と日本社会の希望を取り戻すことの重要性を指摘し、講演を締め括った。
4 質疑応答〜いま、私たちができること〜
講演後の質疑応答では、震災によって明らかになった問題を日本社会としてどう受け入れるかが焦点となった。
宇野・前田両氏は、放射能汚染とがれき処理・風評被害の問題を検討する中で、100%の安全性は不明でも、適正なチェックを行った場合は、市民も行政も一体となって日本社会全体としてリスクを引き受けることが必要ではないかと述べた。
5 おわりに
無限に続く犯人捜しやスケープゴート作りの中からは、被災地の希望も日本社会の希望も生まれない。
今回の記念行事では、異質なものを排除しリスクを一定の地域に押しつけがちな日本社会が再び希望を取り戻すための方途について、来場者の市民全員が一歩深く考えられたのではないかと思う。