会報「SOPHIA」 平成23年11月号より

番号制度シンポジウム in 愛知傍聴記



情報問題対策特別委員会 委員
加 藤 光 宏


1 「社会保障・税に関わる番号制度」(以下「番号制度」)の導入が、着々と進んでいる。年明けの通常国会での法案提出、平成27年1月の利用開始を目指しているという。  番号制度は、国民一人一人に「マイナンバー」と呼ばれる固有の番号を与え、国民の個人情報を扱う際の共通のキーにしようという制度である。当面は、年金、医療、介護保険、福祉、労働保険の社会保障分野と税務分野で利用を開始するとされているが、将来的には民間の取引での利用も検討されている。番号制度は、行政の効率化を図り、社会保障給付や税の公平性を確保するためのインフラである、というのが謳い文句である。


2 政府は、国民の意見を直接聞いて制度づくりに活かしたいとして、各都道府県で、番号制度についてのシンポジウムを開いている。11月20日には、アイリス愛知でシンポジウムが開かれた。  
 来場者は150名ほどであり、ほぼ満席に近い状態であった。この問題に対する市民の関心の高さがうかがわれた。


3 シンポジウムでは、内閣官房社会保障改革担当室審議官の向井治紀氏による番号制度についての政府説明、中央大学法科大学院教授の森信茂樹氏による特別講演の後、パネルディスカッションが行われた。パネリストは、向井審議官、森信教授のほか、日本経団連の井上隆氏、名古屋税理士会の長谷川敏也氏、社会保障・税一体改革担当大臣の古川元久氏、そして、当委員会副委員長の嶌将周会員の6名である。  
 嶌副委員長は、@共通番号で種々の情報を紐づけ(名寄せ)した場合に、情報漏洩やなりすましの危険性がある、A情報漏洩を監視する第三者委員会が機能するか疑問である、B目指すべき社会保障制度の具体的内容が明らかにされていないのに、番号制度の導入だけが進められるのは順序が逆である、など番号制度に対する根本的な問題点を指摘した。  
 他方、他のパネリストは、長谷川税理士が、情報漏洩の対策がなされることを前提に、税申告などに限定して番号制度を導入すべし、という控え目な意見を述べたほかは、概ね番号制度に前向きな意見であった。  
 しかし、来場した市民は、決して前向きではなかった。会場からは、閉会時間を1時間延長するほど多くの質問や意見が投げかけられたが、そのほとんどが番号制度導入に対する疑問や不安であった。情報漏洩、なりすましの危険性に関するもののほか、制度設計次第では弱者を切り捨てるための道具として使われるのではないか、もっと時間をかけて慎重に議論をすべきではないか、などなど。これに対しては、主に主催者側の古川大臣、向井審議官が回答したが、その大半が、今後検討する、国民皆様が考えることである、といった抽象的な歯切れの悪い回答であった。


4 番号制度で何を実現しようとしているのかを全く示さず、情報漏洩などの問題に対して第三者機関という頼りない安全神話に頼り切ったまま、ただ制度導入だけを目指す無責任な政府の態度が露わになったシンポジウムであったと思う。


5 なお、シンポジウムの模様について、12月11日の中日新聞に採録記事が掲載予定であるので、ご覧いただきたい。  
 また、番号制度に対する日弁連の見解について、平成23年7月29日付の「『社会保障・税番号大綱』に関する意見書」を是非ご一読いただきたい。