第54回日弁連人権擁護大会開催される
会員 矢 崎 信 也
10月7日、高松にて第54回人権擁護大会が開催された。議長には昨年に引き続き当会の松本篤周人権擁護大会運営委員長が選出された。1年間の事業活動報告の後、東日本大震災関連の特別報告2件と法制審議会新時代の刑事司法制度特別部会についての特別報告がそれぞれ行われた。当会の会報(6月号)にも投稿して頂いた仙台弁護士会の前田拓馬弁護士の特別報告は、女川町での被災体験とその後の被災地における活動を赤裸々に述べたものであり、同震災の凄まじさをあらためて感じずにはいられなかった。
その後、前日のシンポジウムを受けて、宣言及び決議が採択された。まず「罪を犯した人の社会復帰のための施策の確立を求め、死刑廃止についての全社会的議論を呼びかける宣言案」が賛成多数で可決され、「希望社会の実現のため、社会保障のグランドデザイン策定を求める決議案」、「患者の権利に関する法律の制定を求める決議案」及び「障害者自立支援法を確実に廃止し、障がいのある当事者の意見を最大限尊重し、その権利を保障する総合的な福祉法の制定を求める決議案」はいずれも多くの賛成意見が述べられた後、全会一致で可決された。
いずれも、「罪を犯した人」、「高齢者、失業者等の社会的経済的弱者」、「患者」及び「障がい者」等現に人権侵害が行われていると認識されている方々を主に対象とするものであり、人権大会にふさわしい内容であった。
来年度は、10月5日に佐賀にて開催される。
日弁連人権擁護大会シンポジウム第1分科会実行委員
村 上 満 宏
死刑を巡って、第47回宮崎人権擁護大会(宮崎)で「21世紀日本に死刑は必要か―死刑執行停止法の制定と死刑制度の未来をめぐって―」をテーマにシンポジウムを行った。7年後の今回、刑罰の目的・本質から自由刑、そして、死刑について考えるということで、上記表題をテーマにシンポジウムを行った。サンポートホール高松に、速報値で922人(会員619人、会員外303人)の参加者を得た。シンポジウム開催に先立ち、3月11日の東日本大震災の被害者と7月22日のノルウェーオスロ連続テロ事件の被害者に哀悼の意を捧げて、黙祷をした。
シンポジウムは、最初に、オスロ大学ニルス・クリスティー教授による基調講演が行われた。オスロで発生した77人死亡連続テロ事件について、同教授は、30万人集会の場で、「我々は、憎しみでこれに応えることはしないし、それは可能だ」としてばらの花を捧げたことを報告された。同教授は、我々は冷静でなければならないと言い、77人を殺した彼に、適切な応報を考えることは不可能であること、彼は、移民の排斥や死刑の復活などの厳罰化等をめざして社会を変えようとしたこと、それに応えるのは「赦し」ではないか、と話された。そして、犯罪者も含めたすべての人は人間であること、刑罰で対応できることには限界があること、何よりも社会的なケアが必要であることを、静かに、しかし、力強く訴えた。
次に、龍谷大学浜井浩一教授は「我が国の刑事政策の現状と問題点」を報告した。同教授は、日本がノルウェーよりも犯罪が少なく安全であり、厳罰化政策には根拠がないこと、日本の治安の本当の問題は、高齢者や弱者に対する福祉の対応が出来ていないことにより犯罪という形で現れる社会問題をどう解決するかにあること等を発題された。
続いて、第1分科会の実行委員会により、「『誰が刑場に消えたのか』―ある死刑囚の一生―」を行った。これは、「絞首刑」(青木理著・講談社)で取り上げられ、最近執行された死刑確定者をモデルにしたものである。なぜ、そのような一生をたどらざるをえなかったのか、日本の現実とあるべき共生社会とを比較させながら語るものだった。
その後、小林修会員、岩井信弁護士によるコーディネイトでパネルディスカッションが行われ、ジャーナリストの青木理氏、元更生保護委員会委員長の冨田正造氏、裁判員経験者の田口真義氏、西鉄バスハイジャック事件の犯罪被害者山口由美子氏、浜井浩一教授らから、刑罰のあり方、死刑の問題点など貴重な体験談を含めた議論が展開された。フロアーからも、共同通信の竹田昌弘氏、労働運動家で元受刑者の稲垣浩氏、セカンドチャンスの中村すえこ氏、多くの死刑冤罪事件に取り組む西島勝彦弁護士によって思いが語られた。
シンポジウム全体として、応報のみでなく社会復帰も大切な刑罰の目的であり、これを実現することこそが、再犯者を減らし、犯罪を減らすことになること、死刑は究極の排除であって刑罰の目的にそぐわないものであること、死刑廃止が望ましいことが確認された。
そして翌日の決議では、死刑問題が各会員の価値観、思想の問題ではなく、人権問題であること、今まで死刑執行停止を呼びかける立場であった日弁連が、今後は死刑廃止について全社会的議論を呼びかける存在になることが圧倒的賛成多数で承認された。
日弁連人権擁護大会シンポジウム第2分科会実行委員
森 弘 典
- はじめに〜シンポジウム企画の経緯
2011年10月6日、アルファあなぶきホール大ホールで、シンポジウム「『希望社会』の実現」が開催され、約750名が参加されました。もともと、日弁連貧困問題対策本部が、場当たり的な政策が行われている今こそ社会保障の理念を確立する必要があると構想していたことを実現したもので、私はシンポジウム実行委員として関わりました。
準備を進める過程で、3月11日、東日本大震災が起き、震災後、我が国の社会保障のほころび、穴が露呈されました。まさに「今こそ」社会保障の理念を確立すべき時です。
- 当事者の声〜赤裸々な「貧困」の実態
第1部「当事者の声」では、児童養護施設職員がすべての子どもに学びの機会を保障するよう訴えられました。その後、首都圏青年ユニオン組合員が、自らが派遣切りに遭った体験から、制度に人が合わせるのではなく、人に制度を合わせるようにする必要があると訴えられました。最後に、歯科衛生士が、子どもの「口腔崩壊」から見える現実を題材に、映像を用いて遺伝的病気ではないのに虫歯が世代間で承継される問題を指摘されました。
- 基調講演「今こそ『希望社会』へ」
第1部「基調講演」では、さいたま大学名誉教授の暉峻淑子氏が「今こそ『希望社会』へ」という演題で講演されました。
暉峻氏は、国家には国内に生きている人の生命・生活を保障する責任がある、そうでなければ国家は国家ではない、「希望」の種はある、それを育てていくことが必要、そのためには、自分たちが「自己責任」「他人事」として片付けてしまわず、社会人としてつながり合うことが必要であると訴えられました。
- 基調報告〜人権としての社会保障確立を
第2部では、実行委員会から、社会保障支出が低く、「所得再分配」が実現されていない日本の社会保障の現状を踏まえて、社会保障法典があるドイツの調査報告を交えながら、人権としての社会保障を確立するため、社会保障基本法を制定する必要性を提言しました。提言は、翌日の大会で「希望社会の実現のため、社会保障のグランドデザイン策定を求める決議」として満場一致で採択されました。
- パネルディスカッション
第3部「パネルディスカッション」では、後藤道夫教授、訓覇法子教授、竹信三恵子教授(元朝日新聞論説委員)、長妻昭衆議院議員をパネリストとして議論が交わされ、「希望社会」を実現するためには、使用者、労働者も含めた社会的合意を形成していくことが必要で、その場を作っていく必要があること、社会保障を国が保障すべき人権として捉え、応能負担、必要充足に基づき制度設計をしていく必要があることが確認できたと思います。
ディスカッションの合間に「特別報告」として、日本でも、釧路で、生活保護受給世帯を対象として、人を大切にする自立支援の取り組みが行われていることが報告されました。
- 今後の取り組み
実行委員会としては、当然ながら人権擁護大会で終止符を打つのではなく、そこで採択された決議を実現するために、計画を練っています。市民の間に社会保障の現状に対する認識が深まるよう、各地でのシンポジウム開催など様々な方法で情報を発信し、同様に社会保障の理念を確立する必要性を感じている方々や団体と連携して、社会的な合意を形成していけるよう運動を展開していきます。
会員 景 山 智 也
第3分科会は3部構成で、第1部は基調報告、第2部は患者の権利法大綱案の提案、第3部は基調報告の報告担当者をパネリストに、前記大綱案をめぐるパネルディスカッションが行われました。
第1部の基調報告では、@東日本大震災における医療、Aハンセン病問題、B子どもの医療、C外国人と医療、D地域医療がテーマとして報告され、あわせて、E患者の立場とF医療従事者の立場から見る医療の現状報告がなされました。
@震災関係については、医療施設や医療関係者も被災し、医療基盤に多大なダメージが与えられた状況と今後の医療構築に向けた取り組みについて、報告がなされました。
Aハンセン病問題については、国立ハンセン病療養所に現在も在所している患者さんにインタビューを行い、強制隔離の実態が語られました。医療の名の下に、断種・堕胎等の施策が、患者のための施策として推進されてきたことが明らかにされました。患者の自己決定権を尊重しようという意識が欠落していたからこそ生じた人権侵害であり、患者の権利を法制化する必要性を強く訴える事実であると感じました。医療自体が、患者の人間としての尊厳を脅かしやすい性質を内在していることに注意を払う必要があると感じました。
B子どもの医療の問題に関しては、「プレパレーション」という子どもの発達段階に応じた方法で医療処置についての説明が行われ、子どもの対処能力を引き出す機会を与えることが紹介されました。これから何が起こるかを説明してもらうことで、子どもは不安を軽減することができ、また、処置の後でこれを乗り越えたことを自己認識し、精神的な成長につながっていくというものです。「子ども扱い」することなく、子どもの人格を尊重するものであり、重要なことだと思いました。
C外国人と医療では、無保険外国人に対する医療拒否の問題や、医療通訳がいないことにより、自分の病状が十分に分からず、知る権利・自己決定権が保障されないことや、知人に通訳を頼んだ場合に、知られたくない自分の病状を知人に知られてしまい、個人情報の保護が保障されない事態になっていることが取り上げられました。
D地域医療では、過疎地域での医師不足の状況とこれに対する取組みが報告されました。医療を受ける権利の平等性、これを保障するための国及び自治体の基盤整備の必要性が明らかにされました。
E患者の立場として、難病対策の現状と、患者の権利オンブズマンの活動内容の報告がなされました。
F医療従事者の立場として、医療従事者の疲弊について、アンケート結果の報告がなされました。医療の担い手である医療従事者が疲弊すれば、安全で質の高い医療の提供が困難となることから、国家の施策による改善が求められるところです。
以上のように、医療の現場では、さまざまな人権問題が含まれているにもかかわらず、患者の権利に関する法律は未だ定められていません。いのちと人間の尊厳を守る医療を保障するために、早期に患者の権利法が制定されることを期待します。