会報「SOPHIA」 平成23年9月号より

法曹養成に関するフォーラム第一次とりまとめ後

―給費制維持運動の「仕上げ」と司法の「怖い近未来」―



日弁連司法修習費用給費制維持緊急対策本部長代行
日弁連法曹養成検討会議委員
法曹養成に関するフォーラム前構成員
川 上 明 彦

1 はじめに

法曹の養成に関するフォーラム(以下「フォーラム」という)は、平成23年8月31日の第5回に第一次とりまとめを急ぎ行ったが、次の日程も議題も未だに決まっていない。

本稿では、給費制維持運動の現状と方針の外、これまでのフォーラムの議論を踏まえて私の法曹養成・司法を巡る危機感をお話ししたい。本会報5、7、8月号に引き続き報告する。なお、私は第一次とりまとめをもってフォーラムでの役目を終え、次にバトンタッチする。

2 給費制維持運動の現状と方針

(1)野田内閣と民主党の現状と政局

野田新首相の下、政府・民主党の人事構成は、結局、財務省シフトが敷かれ、財務省の意向が色濃く反映している。民主党政調会には、櫻井充前財務副大臣が会長代理に入った。民主党PTのメンバーは全面的に改められ、現時点では活動再開の動きが不明である。また、民主党法務部門会議の座長は、給費制維持派の辻恵議員から松野信夫議員に交代した。

臨時国会は9月末に閉会したが、本日、政府・民主党は、第3次補正に向けて10月20日過ぎの召集で調整に入った。国会の議決がなければ、貸与制に移行してしまう。

このような情勢は、震災・原発等による心理的影響もあって昨年以上に給費制維持の困難さを感じさせるが、これまた昨年同様に、まだまだあきらめない。今後の展開と運動の様相を呈している。

(2)ねじれ国会と三党協議の重要性

現在、完全な「ねじれ国会」である。臨時国会の期間が自民・公明の反対により9月末まで延長されたことにも象徴されている。給費制維持につき、公明党は一貫して支持しており、自民党は有力議員への働きかけが功を奏してか昨年に比べ柔軟姿勢となっている。要は、昨年以上に民主党次第なのである。

三党協議・三党合意の重要性は、昨年と全く変わっていない。給費制についても三党協議に民主党が加わることができる状況を生み出せるか否かが最初の勝負である。

(3)日弁連の方針と運動

民主党は、10月中旬までには給費制・貸与制に一定の方針を示すとのことである。現状のポイントは、民主党PTの正式とりまとめである「法曹養成制度の在り方の検討が終了するまでは給費制を維持すべきである」を民主党としての正式な見解にすることにある。

9月28日には、日弁連・ビギナーズネット・市民連絡会が共同で政党要請を行い、正午からの院内集会には200名超の参加者があり、議員本人出席27名、代理出席45名の従来の規模以上の参加があって気勢を上げた。

10月は、国会議員は基本的に地元に戻る。地元での議員要請活動を活発化させて、特に「拒否権」を持つ議員への対応も強化し、次の臨時国会に向けて給費制維持を訴えていく。

10月27日には、東京にて1000人集会(日比谷公園)・パレード・院内集会を開催する。これを給費制維持運動の総仕上げに向けての集会と位置付け、これに向けて議員要請活動を活発化させていく。11月以降は今後の動向次第となる。・・・・・!

3 法曹養成の杞憂とすべき「怖い」お話へ
(1)はじめに

政府のフォーラムの設置により、給費制・貸与制の外、法曹養成制度全体の見直し検討が行われることになった。法曹希望者の激減が続く中、法科大学院制度を巡る悲惨な諸問題、法曹人口の急激な拡大に伴う多くの歪みが深刻化している。フォーラムの設置当初、司法の未来を感じさせてくれる議論が期待された。しかし、第一次とりまとめに至る経過からは、多くの課題と危険な状況が見えてくる。

(2)フォーラム有識者の構成と傾向

フォーラムの構成の中心は、13名の有識者である。メンバーのご紹介を少しさせていただく。そこから、どのような議論がされる可能性が十分あるかをお察し頂けるであろう。

@ 法曹人口問題について

法曹人口について、法務大臣は合格者3000人目標の見直しを行うかのような発言を行った。しかし、有識者の一部をご紹介しよう。

佐々木座長は、法務大臣宛に2010年2月24日付法曹養成制度改革に関する提言を司法制度改革審議会の佐藤幸治会長、高木前連合会長らとともに提出している。そこには、法曹像の転換を求め、早期実現事項として「新司法試験合格者を年間3000人程度とする。」ことが求められている。

法科大学院関係者として、司法制度改革審議会委員・法科大学院協会副理事長の井上委員、法科大学院協会理事長の鎌田委員、法科大学院教授の伊藤委員及び田中委員の4名。

消費生活相談員の肩書で政府の複数の審議会の委員となっている岡田委員は、第1回フォーラムで「弁護士が3000人で多過ぎるということは、私どもとしては実感がありません。」と明言している。

連合の南雲事務局長は、第4回フォーラムに向けて意見書を提出し「当初目的である年間3000人の法曹人材を養成する目標は堅持し、法曹人材のまったくいない地域を可能な限り最小化する努力を行うべきである。」と記載している。

ここで紹介した有識者だけでも7名である。司法試験合格者年間3000人目標の閣議決定は、深刻な法曹養成の現状が理解されて変更されると考えるのは禁物である。このフォーラムの陣容による「空気」の打開のためには、集会等の運動を通して現場でマスコミへ訴えかけるとともに国会議員の理解を得る地道な活動以外に道はないと私は思う。

A 法科大学院問題

本年度の新司法試験合格率は23.5%と更に下落した。5年内3度という受験回数制限から「三振」が急増している。法科大学院制度により長期の経済的な負担が強いられ、合格しても就職難が待っている。現状では、構造的に多様な人材の確保ができない。法曹志望者の激減に伴い有為な人材の確保自体も難しくなってきている。更に深刻なことは、高校生の法学部志望が減り、志望者の学力も低下していることもある。

この情勢において、各法科大学院の「生き残り」という利害関係の深い中で、法科大学院関係者と支援者が中心にあるフォーラムで、どのような抜本的な改革提案ができるのであろうか。この点、日弁連・単位会でも抜本的な改革の議論が進んでいないし、全く足りていない。早急な議論が望まれる。ちなみに、長野県弁護士会の出した意見書は興味深い。

(3)最後に―近未来の予測と危機意識―

貸与制の経済的負担は、中長期的に見れば司法修習制度自体に疑問を投げかけるであろう。現在、弁護士法5条は司法修習を経なくても7年の所定の実務経験で弁護士資格を取得することを認めている。この7年が3年となれば、統一修習はおろか司法修習制度の廃止に繋がっていくであろう。法曹人口の急増がこれに拍車をかけ、多数の弁護士の多元化は、弁護士の使命の共通な自覚を難しくさせるであろう。市民の支持を失った弁護士会に自治もなかろう。今、わが国の弁護士制度自体が問われているという危機意識と行動が、我々に必要ではなかろうか。・・・・・!

(10月3日記)