会報「SOPHIA」 平成23年9月号より

経営安定特別相談室セミナー

(平成23年9月16日開催)

中小企業が知っておくべき労働法実務〜解雇・雇止め〜



弁護士業務改革委員会 委員
齋 藤 清 貴

本年も、名古屋商工会議所にて、同商工会議所と当会の共催で、中小企業経営者を対象としたセミナーが開催された。本年のセミナーは、「中小企業が知っておくべき労働法実務〜解雇・雇止め」をテーマに、使用者側の立場で労働問題に精通する土方周二会員を講師として、ご経験に基づく具体的かつ実践的な説明がなされ、170名を超える受講者が熱心にメモを取った。以下、セミナーの内容について報告する。

1 解雇

まず、解雇とは使用者が労働者に対して一方的に労働契約を解約する意思表示であり、意思表示を必要としない死亡、定年、休職期間満了による当然退職との概念相違を理解すべきである。その上で、連絡が取れない労働者に対しては、解雇の意思表示を送達することが困難なため、連絡が取れなくなった労働者の解雇について、あらかじめ就業規則に規定をしておいた方がよいであろう。

「即時解雇の解雇予告義務の除外認定制度(労働基準監督署長による)」については、懲戒解雇が有効と考えられる場合でも除外認定されない事例もあるし、労使間で争いが予想される場合には、除外認定のために時間を要することから、解雇予告手当を支払うより多額の支出を伴うこととなる可能性がある。よって、即時解雇をするより解雇予告手当を支払うか、解雇予告期間を設けた解雇をした方が適当な場合もある。

また、労働契約法第16条は、裁判例による解雇権濫用法理を明文化したもので、解雇には客観的に合理的な理由が必要とされるものであり、合理的な理由についての具体例が紹介された。なお、「整理解雇に先立つ希望退職の実施により、有能者に退職されてしまうリスクがある」等の問題を含め、中小企業に整理解雇の要件すべての充足を求めるのは非現実的であるとの指摘があり、中小企業使用者側の弁護士としては、中小企業の立場を裁判所に積極的に説明していくことが重要である。

「懲戒解雇と普通解雇の選択」については、懲戒事由が存在する場合でも、懲戒解雇は労働者にとってダメージが大きいため紛争になりやすいこと、懲戒解雇でも解雇予告義務の除外が認められない可能性があること、退職金規定が無い、あるいは退職金規定があっても若年労働者で支給金額が少額である場合は、使用者にとって懲戒解雇による退職金不支給による利点は少ないこと、退職金には給料の後払的性格もあるとされること等から、労働者の非違行為が使用者の信用を著しく損なうような場合を除いて、コスト面から、普通解雇を選択した方がよい場合もある。

2 雇止め

有期労働契約には、純粋有期契約タイプ、実質無期契約タイプ、期待保護(反復更新)タイプ、期待保護(継続特約)タイプの4類型がある。期待保護タイプと判断されて雇止めが問題視されないようにする実務上の留意点は、期間の定めのある雇用契約であることをはっきりさせておくこと、採用手続及び採用基準を簡易にして正社員と明確に区別すること、長期継続雇用を期待させる言動や募集内容としないこと、全員更新とせず雇止めを相当数行うこと、更新の回数を少なくし長期間継続雇用にならないようにすることなどである。

3 無料法律相談の実施

その他、セミナーと同時に無料法律相談も行われ、相談枠一杯(10件)の相談が行われた。