会報「SOPHIA」 平成23年8月号より

中高生のためのサマースクール開催
       〜来年も開催します!〜


ピンチにもひるまない法教育委員会



法教育特別委員会 委員長
熊 田 登与子

1 サマースクール概況

今年も8月1・2日の法廷傍聴を皮切りに、当委員会夏の恒例行事「中高生のためのサマースクール」を開催しました。1・2日の午前午後に法廷傍聴、4日に体験講座、5日に刑事模擬裁判を実施しました。今年も1・2日午前の法廷傍聴については、小学校5・6年生にも体験してもらうことにしました。参加者は、中高生が延べ71名、小学生が延べ19名でした。体験講座は、ここ3年ほど企画が定番化しているので、昨年8月号の会報で宣言した通り、是非新企画を!と、若手委員をチーム分けして企画を募り、「クイズ選手権〜2011夏〜」に決定しました。「弁護士に挑戦」「ティーンコート」は、それぞれ新たなテーマ設定・ディベーター、新たなシナリオ・キャストで、いずれも若手委員が大活躍でした。「裁判官・検察官・弁護士ここだけの話」は、参加者から事前提出された質問項目も多く、子どもたちの熱意が伝わってきました。今年も名古屋地裁・名古屋地検に快くご協力いただきました。ありがとうございました。体験講座の参加者は延べ84名でした。刑事模擬裁判は、今年も書き下ろしのシナリオ「秋葉原公園強盗致傷事件〜証言の狭間〜」を、62期・63期の委員が被告人・証人・弁護人・検察官となって熱演しました。参加者は41名でした。

2 サマースクールのピンチ!?

平成15年に「第1回中高生のためのサマースクール」を開催してから9年。その間、当初はあった体験講座の「ルール作り」や「THE調停」という、今考えても法教育の名にふさわしい好企画が、参加者が集まらず開催中止となったこともありました。とはいえ、これまでに引き継がれている体験講座は、昨年までは開催日の前に定員に達して受付終了になっていましたし、刑事模擬裁判も昨年は約80名の申込がありました。ところが、今年は、事務局から毎日報告される申込者数が伸び悩み、「ティーンコート」は、昨年の2チームから1チームとなり、刑事模擬裁判は40数名の申込に留まりました。

忙しい中、準備に多大な時間と労力を割いてくれている委員の頑張りに報いるためにも、何とか申込者を増やそうと、宮崎担当副会長および副委員長が、マスコミ・ホームページ・出前授業で知り合った社会科教諭への電話勧誘など一所懸命に広報に努めましたが、結果として、申込者は増えませんでした。

3 これからのサマースクールはどうする?

このような申込状況を受け、また、名古屋地裁でも夏休みに親子参加の法廷傍聴や刑事模擬裁判体験という同様の企画がある等から、当会のサマースクールの先駆者性は認めつつも、最早使命は終わったのではないか、もう来年のサマースクールは開催できないのではないか、と悩みました。そうした中、体験講座・刑事模擬裁判当日を迎えました。

でも、(負け惜しみではなく)成功の有無を参加者数で計った我々の考えの至らなさを痛感しました。いずれの講座も、今までにないくらい子どもたちの発言が活発で、人数が少ないことが気にならず、むしろ、「もっと少人数の方が発言がたくさんできてよい」というアンケート回答もあったくらいです。1人あるいは友人と数人で申し込む積極的参加者が多かったせいかと思います。準備と当日の運営に奔走してくれた各チームの委員は、既に来年のチームの陣容を考えているようです。ありがとう。
ですから、来年も開催します!





本音をぽろり・・・

〜裁判官・検察官・弁護士ここだけの話〜



法教育特別委員会 委員
上 野 千 晴

今年もサマースクール体験講座の一つとして本講座が開催されました。この講座はその名のとおり、参加した中高生が、直接、裁判官、検察官、弁護士に質問をして、三者がそれぞれの立場から、まさに「ここだけの話」を語る講座です。一度に法曹三者に会える講座であり、例年人気の講座となっています。

当日は、中高生約10名ずつのグループ4つに、それぞれ法曹三者1名ずつ及び司会弁護士が加わり進行しますが、どのグループも講座のはじまりは職業当てクイズからスタートしました。これは、見た目と雰囲気だけで職業を当ててもらうものですが、中高生に選んだ理由を聞くと、各職業に対するイメージが浮き彫りになるとともに、結果に一喜一憂する大人(法曹三者)につられて中高生からも笑顔がこぼれ、一気に「ここだけの話」へと突入することができました。

質問の中には、それぞれの仕事を選んだ動機や仕事内容、嬉しかったこと、辛かったことなど体験談に関する質問があるのは勿論のこと、中には「感情の支配をどうコントロールするのか」「やる気にならない時はいい加減になるのか」といった質問も飛び出し、本音を語らざるを得ない場面もありましたが、どれも純粋で直向きな質問であるが故に誤魔化しはきかず、つい本音を吐露してしまうといったところにこの講座の醍醐味があります。当日語られた本音については、勿論、書面化できませんが、参加した会員すらからも、なるほどと思った、あっという間に2時間経ったとの感想がこぼれるほど、充実した内容となっていました。

そういえば、講座当日にカメラ取材が入るかもしれないという話を聞き、こんな素晴らしい講座をもっと多くの生徒さんや親御さんに知っていただきたいと思う反面、裁判所、検察庁に「ここだけの話ですから可能な限り本音で」と連絡をして、かつ録音を申し出た生徒さんには「ここだけという前提だからごめんね」とお断りしていた担当者としては“それは勘弁して…”と思わざるを得ませんでした。この講座の良さをストレートに広報するのは難しいですね。

講座の終盤には、自分ならどの職業に就きたいかという質問をしましたが、今年も例年どおり検察官の人気が高かったです。形式が大事で冷たいイメージになりがちの裁判官、悪い人を庇う弁護士という腑に落ちない側面を払拭できない二者に比べ、正義に向かって真っ直ぐ仕事をするという解りやすいイメージが功を奏しているのでしょうか、あるいは、毎年検察庁から熱く歯切れよく語る検察官が参加されるせいでしょうか、ピュアなハートには熱い語りが響くようです。

最後に、裁判所からご参加いただいた阿久津見房、渡邉裕美、滝澤英治、塚田久美子4名の各裁判官、検察庁からご参加いただいた菊池静香、玉田康治、坪井麻友美、栗原一紘4名の各検察官、当会から参加いただいた会員の皆さま、中高生の財産となる貴重なお話をしていただきありがとうございました。

この場を借りて心から御礼申し上げます。







熱闘サマースクール!

クイズ選手権〜2011夏〜



法教育特別委員会 委員
尾 関 信 也

【サマースクールでクイズを!?】
体験講座に新企画を加えることとなった。
その名も「クイズ選手権〜2011夏〜」。
クイズと聞けば確かに楽しそうである。参加者に事前準備の負担をかけることなく、気軽に参加してもらえそうではある。
しかし、実際に企画するとなると、テレビ番組のように段取り良くできるはずもなく、このトップダウンによる新企画にチーム員一同頭を抱えることとなった。
前夜までバタバタと準備を進めたが、とても「2012夏」があるとは思えない、危険な見切り発車で当日を迎えることとなった。
【オープニング】
13名の中学生を学年に応じてチーム分けし、チーム名を考えてもらったが、参加者の表情は硬い。うーん、大丈夫か?
【第1問 ○×クイズ】
ウルトラクイズ方式のクイズがスタート。
「裁判官は法廷で決められた黒い服を着るが、裁判の種類によっては紫の服を着ることもある」など8問を出題。
おっ、意外と解答が割れている。チーム内で相談したり、他のチームの解答に一喜一憂したり、参加者の表情も和らいできた。
イケメン司会者のツッコミもあって、好反応。いけるか?
【第2問 穴埋めクイズ】
「裁判所の裁判員裁判PRキャラクターは『サイバン○○○』である」この出題に1人1文字ずつ記入して、せーので解答する。
サイバン「インコ」は、当時の法相が着ぐるみまで着たのに認知度が低い・・・。
その一方で、参加者の独創的な答えで会場に笑いが起きる。
パワーポイントでの出題も好評だ。
【第3問 笑百科クイズ】
ニセ中学生からの相談を、うさん臭い弁護士3名が解答。どの弁護士の解答が正しいか、理由と共に答えてもらう。
さすがは本職。しかも名演技に迷演技。どの解答にも説得力がある。参加者の解答もきれいに3つに分かれた。
そして正解発表。真剣に悔しがる参加者の姿が見られる。クイズを心から楽しんでくれている証拠であると思い安堵する。
【第4問 早押し早抜けクイズ】
最後は、逆転のチャンスもある早押し早抜けクイズ。
限られた予算の中で早押し機械などは調達できない。おもちゃのハンマーで早押し。
点数も、正解者によるクジ引きで「他チームから横取り20点」などが決まるため、解答ごとに盛り上がる。時間ギリギリまで21問を出題し終了。
    おもちゃのハンマーで早押し!
【総括】
いざ講座が始まってみると、準備段階での心配は杞憂に終わり、参加者の笑顔が印象に残るとても楽しい講座となった。
タイトな日程で準備を行ってもらったチーム員の皆さんには、心から御礼申し上げる。
参加人数が少し寂しかったが、企画が固定化しつつある体験講座の中に、このような肩の力の抜けた講座があっても良い。
「2012夏」は果たして・・・?




今年は生徒が盛り返す!

〜弁護士に挑戦〜



法教育特別委員会 委員
林   秀 明

今年も、中学生・高校生のグループが弁護士1人を相手にディベートを行い、ディベートに参加していない判定役の生徒がその様子を見て勝敗を決める体験講座「弁護士に挑戦」が開催されました。

今年は中学生14名、高校生10名が参加してくれました。昨年は弁護士が全勝しましたが、今年は生徒たちが盛り返し、弁護士が3勝2敗1分でかろうじて勝ち越すという結果に終わりました。

1 中学生の部

まず、魚住直人会員が登場。大の愛煙家として、「自宅以外での喫煙を禁止(喫煙所の設置の禁止、分煙を認めないこと等も含む)することに賛成か」とのテーマで「反対」の立場に立ちました。生徒が煙草の害や医療費の減少に繋がることなど主張すると、魚住会員は車と排気ガスの議論を持ち出すなどして目先を変えたところ、生徒はうまく反論できず、3対1で魚住会員が勝利。

次に、中根浩二会員が登場。「安楽死を認めることに賛成か」とのテーマで「反対」の立場に立ちました。中根会員は、生徒に痛いところを突かれそうになると、独特のゆっくりとした口調で自分のペースに持ち込み、4対0で中根会員が勝利。

もう一つの部屋で、荒川武志会員が登場。「内閣総理大臣を国民が直接選ぶ制度の導入に賛成か」とのテーマで「反対」の立場に立ちました。生徒は民意の反映で押すも、荒川会員は外交や防衛など専門的事項を国民が理解していないことなどを主張してじりじり盛り返し、結果は1対1の引き分けに。

次に、蕪c祥子会員が登場。「制服を廃止することに賛成か」とのテーマで「反対」の立場に立ちました。蕪c会員は制服を着ることで帰属意識が高揚すると理念的な主張をするも、生徒は制服では夏が暑い、洋服代がかかるなど判定役生徒に受け入れやすかった現実論を展開し、結果は4対0で生徒が勝利。

2 高校生の部

まずは原武之会員が登場。「少年犯罪を実名報道すべきか」とのテーマで「反対」の立場に立ちました。前日にNHKのカメラが入るとの連絡があり、5分程度のことと思っていたら、初めから終わりまで全て撮影。生徒が萎縮してしまうのではと心配しましたが、そんな心配を余所に、生徒は堂々と主張を展開。結果は2対1で原会員の勝利でしたが、生徒の戦いぶりは見事でした。

最後にディベーター常連の小川淳会員が登場。「裁判員制度を維持すべきか」とのテーマで「反対」の立場に立ちました。小川会員は、生徒からの鋭い指摘に対して、制度発足までに議論された問題点を挙げて反論。小川会員は自信ありげでしたが、結果は6対1で生徒の勝利。判定役の生徒からは「煙に巻いている」「話が長い」など厳しい評価。小川会員には是非来年もディベーターとしてリベンジをしていただきたいです。

3 最後に

今年は例年に比べて参加者が少なく、少人数で弁護士と戦えるのかと心配しました。しかし、例年のように特定の生徒に頼ってしまうこともなく各生徒が積極的に発言し、1人当たりの発言数も増えました。アンケート結果からも生徒の充実感が伝わってきました。参加できる生徒数が減ることになりますが、充実した議論に繋げるために定員数を減らすかどうかは、今後の課題であると感じました。





未来の法曹、ここにあり

〜ティーン・コート(子ども裁判所)〜



法教育特別委員会 委員
原   英  士

1 いざ、ティーン・コートへ

今年の事案は、中学3年生の少年Aが、親友の少年Bと嗜好の違い(バイク vs iPhone)から疎遠となり、かつ、Bに自分の嗜好(バイク)を馬鹿にされたため、バイクを乗り回す先輩たちに「Bがバイクなんて格好悪いと言っていた」と告げ口した結果、Bが夏祭りの日に先輩たちに殴られケガを負ったという傷害事件でした。12名の中高生が参加し、裁判官役3名、検察官役5名、弁護人役4名に分かれ、ルール説明後、各役割の手続の確認や作戦会議が行われました。

  1. (1)裁判官役の子どもたちは元気な中学1、2年生の男子3名組で、ノリノリで裁判手続のセリフを確認していました。
  2. (2)検察官役の子どもたちは、最初は慣れない様子を見せていましたが、サポート役の委員の助言により、徐々に自分たちから発言しはじめ、争点として、@Aが謝罪や反省をしていないこと、AAがBを殴る先輩を制止しなかったこと、BBに全治1か月の大ケガを負わせたこと等を挙げていました。
  3. (3)弁護人役の子どもたちは、A役の委員に対し、Aの良いところを引き出すように、物怖じせず我先に質問攻めにしていました。
2 ティーン・コートの目玉、少年質問!

子どもたちみんなが、顔つきを変え真剣な眼差しで、少年A役の委員に対し、作戦会議で検討したことやその場で思いついたことを質問している姿がとても印象的でした。質問予定時間が大幅に延長されるほど、みんなが積極的に質問していました。



   少年質問で弁護人になりきる子どもたち

3 そして、判決へ

Aに対する判決は、以下のとおりでした。

  1. @高校入学まで、門限を20時とする。
  2. A一人で学校のトイレ掃除をやる。ただし、Bを掃除に誘っても良い。
  3. B18歳までバイク免許を取らない。
  4. C「B」及び「Aの家族」に謝罪する。
  5. D悪い先輩との関係を切る。
  6. Eこれらを1つでも守らない場合、1か月間、お寺で修行する。

実に「面白い判決」でしたが、「すべての利害関係人に配慮したすばらしい判決」として妙に納得させられました。

4 終わりに

子どもたちが、より一層裁判に興味を持つことができたと感じられたので、今回のティーン・コートは成功だったと思います。

今回のティーン・コートに参加したことにより、子どもたちが、例えば「十数年後に法曹として活躍すること」を夢見て、日々の勉強を頑張ってくれるならば、(僅かながらではありましたが)ティーン・コートに携わった者として、こんなに嬉しいことはありません。もっとも、なかには新人弁護士顔負けの末恐ろしい子どももいましたので、子どもたちが将来相手方代理人等になった場合に備えて、私自身も日々の勉強を怠らず頑張らねばと思わずにはいられませんでした(苦笑)。





秋葉原公園強盗致傷事件〜証言の狭間〜

〜刑事模擬裁判劇〜



法教育特別委員会 委員
大 瀧   保

1 今年度の模擬裁判劇の特徴

サマースクールの模擬裁判劇は、弁護士が刑事裁判の様子を演じる裁判劇とその裁判劇を見た生徒達がいくつかのグループに分かれて、有罪か無罪かを話し合う評議が行われます。

今年は、去年までの良い部分を引き継ぎつつ、生徒達からの要望を取り入れ、@生徒からの質問を、被告人質問だけではなく、各証人尋問にも受け入れる、A評議の時間をできるだけ長くするという2点を導入しました。

2 模擬裁判劇のシナリオ

今年は、夜間の公園で強盗事件が発生し、事件の目撃者の証言により、逃走した犯人の原付が特定され、後日、その原付に乗っていた被告人が逮捕されたという事案です。

被害者及び目撃者の目撃証言の信用性のほか、「事件当時、原付は盗まれていた」という被告人の弁解を裏付ける弁護側証人を登場させ、その弁解の合理性も検討させる内容にしました。

また、意図的に各証言に食い違いや曖昧な部分を残し、@強盗の犯人性だけではなく、Aその犯行の有無や態様を考えさせるシナリオにしました。

犯行態様に関する考え方によっては、強盗致傷罪、窃盗罪と傷害罪、傷害罪のみ、無罪など結論が異なり、評議で様々な意見が出ることを期待して、このようなシナリオに決定しました。

さらに、今年も例年通り、参加する生徒達が退屈をしないように、犯行現場や登場人物の名前などに、小ネタを織り交ぜました。

本番では、生徒達からの反応も薄く、滑ったと後悔をしましたが、後の評議などで話題になっており、一安心しました。評議では、多くの生徒が初対面ですので、このような話題で生徒同士が雑談することで、生徒達の緊張も和らぎ、議論も円滑に進むようです。

羽目を外さない程度で、工夫をすることが、大切であるとあらためて実感しました。

なお、今年の小ネタは、某国民的アイドルグループに関するものでしたが、これは某委員が発案したものです。なかなか生徒達の受けも良かったので、某委員の趣味が非常に役立ちました。

3 裁判劇は自由演技

各役のキャラクター設定は、出演者にお任せしたのですが、かえって出演者の個性的な熱演が生徒達に高評価でした。

特に、被告人役の東端克博委員の演技は圧巻で、怪しさ満点の被告人ができあがりました。

また、生徒達から証人や被告人に次々と鋭い質問が出され、今年から始めた各証人への質問も大成功でした。

4 評議は少人数で

今年は、参加する生徒の人数が少なく、一グループ4名前後の少人数での評議となりました。

しかし、少人数であることが幸いし、一人一人が多く発言をする機会ができ、例年に劣らない活発な評議であったと思います。

5 最後に

今年参加してくれた生徒の中には、中学1年から高校3年まで、6年間このサマースクールの模擬裁判劇に参加してくれた生徒がおりましたし、来年もまた来たいという生徒も多くいました。

多くの委員にご協力いただいて、本当に充実した模擬裁判劇を行うことができた証だと思います。

今後も生徒の期待に応える模擬裁判劇が続くことを期待しています。