会報「SOPHIA」 平成23年3月号より

死刑を考える日




人権擁護委員会 委員
杉本 みさ紀


2011年3月12日(土)午後1時30分より、当会会館5階ホールにて、「死刑を考える日 〜映画『BOX 袴田事件 命とは』から、死刑と冤罪を考える〜」が開催され、会員含め約50名の市民が参加した。

魚住副会長の挨拶の後、袴田事件の一審を担当し、自らは無罪と考えつつ、死刑判決を書いた熊本裁判官の苦悩を描いた、映画『BOX 袴田事件 命とは』が上映された。

袴田事件は、1966年、現在の静岡市清水区で発生した強盗殺人放火事件で、死刑が確定した袴田巌死刑囚は、今も冤罪を訴え、再審を請求している。袴田氏は、30歳で逮捕されて以来、75歳になる今日まで身柄拘束され、現在東京拘置所に収監中である。

映画の上映に続き、静岡県弁護士会の角替清美弁護士が、弁護団報告を行った。角替弁護士は、一審における事実認定、控訴審から第一次再審までの裁判所の判断における問題点を、分かりやすく説明した。連日長時間の拷問を伴う取調べ、わずか30分程の弁護人接見、採取された45通の自白調書、その中で任意性ありとされた1通の自白調書、不合理な自白の内容、動機等供述の不自然な変遷。更に、犯行時の着衣とされた5点の衣類について、発見された経緯の不可解さ、付着した血痕、開いていた穴の位置の不自然さなどを指摘した。角替弁護士は、一日も早く袴田氏の冤罪を晴らすため、今後も精力的に活動していくと述べた。

続いて、袴田氏の姉、袴田ひで子さんが講演を行った。ひで子さんは「警察の拷問は、映画よりも酷かったと思う」と述べた。事件当時、犯人は袴田氏と決めつけた報道がなされ、家族は外にも出られず、一審で死刑判決が出たときも論調は変わらなかった。そのなかで、法廷を傍聴していたひとりの男性が、袴田氏の母親に「この事件はおかしいね」と声をかけた。袴田氏は、未決勾留の頃には、面会に訪れたひで子さんに事件の真相を熱心に語るなど、気丈に振る舞っていたが、死刑確定後は死の恐怖に耐えきれず、精神に異常を来すようになった。拘禁反応による不可解な発言も多くなり、面会も困難な状況であるという。にもかかわらず、拘置所は「異常はない」と繰り返す。現在、ひで子さんは、袴田氏の保佐人になっている。

ひで子さん自身も「眠れない日々が続いたが、支援者に励まされて乗り越えた」と語った。司会者漆原由香会員の丁寧な質問に、ほほえみを絶やさず答えるひで子さん。「今、求めていることは」との質問に対し「熊本裁判官に感謝している。支援者に感謝している」と述べた。これまでの計り知れぬ苦しみと、それを受け止め、強く生き抜こうとする姉弟の深い絆を感じさせる、重い言葉であった。

講演後、会場から「虚偽の自白を生まないために、取調べの全面可視化を求めるべきではないか」との意見があった。また、熊本裁判官が「自分は無罪を主張した」と発言したことにより、袴田事件の問題が広く世間に知られることになった点を指摘し、「裁判員の守秘義務を撤廃せよという動きはないか」との質問が寄せられ、小林修会員が「日弁連は、広汎な守秘義務を課すことは問題であるとの意見を出している」ことを紹介するなど、最後まで熱気溢れる会場であった。
 「死刑を考える日」は、2009年5月の映画「休暇」上映に続く企画。充実した内容に来場者の評価も上々であった。