会報「SOPHIA」 平成22年11月号より

西三河支部「法の日」記念行事


最近の日本の政治家は憲法の意味を


全く分かっていない



西三河支部 会員
井 上 洋 一
  1. はじめに  
    平成22年11月13日(土)、岡崎市勤労文化センターにおいて、「今、再び、『日本国憲法』をよみなおす〜個人の尊厳が必要とされる現場から〜」とのテーマで「法の日」記念行事が開催された。
  2. 第1部・樋口陽一氏の講演
    第1部の樋口氏の講演は、表題の言葉で始まった。同氏は、大日本帝国憲法の制定議会において、伊藤博文が「憲法ヲ創設スルノ精神ハ、第一君權ヲ制限シ、第二臣民ノ權利ヲ保護スルニアリ。」と述べたことを紹介し、伊藤のような権力政治家ですら憲法の役割を熟知していたのに比べ、「憲法には権利や自由の条項だけで、義務がほとんどない。」等と述べる最近の政治家の無理解を嘆いた。
      さらに、同氏は、専門である比較憲法学の見地から個人の尊厳論を展開した。
      西欧社会には一神教の伝統から超越的価値が背景にあり、これが政治権力に直結した結果、度重なる宗教戦争の惨禍を引き起こした。この経験から、西欧憲法は、超越的価値と政治権力を分離することで世俗権力を拘束し、個人の尊厳を保障する。そのため、西欧憲法では、政教分離が極めて重視されている。
      これに対し、日本社会は多神教の伝統のために超越的価値を有しない。では、日本国憲法において政教分離の機能を代替するものは何か。同氏は、日本国憲法は、戦争によって個人の尊厳が蹂躙された経験から、戦争放棄によって政治権力を拘束し個人の尊厳を保障しようとしていると述べ、9条の重要性を強調する。
      最後に同氏は、現代のグローバリズムを検討する。グローバリズムは一面として自由の拡大に貢献するが、他方、無秩序なマネーの暴走は個人の尊厳を脅かすからである。
      同氏は、現代はグローバリズムの中の仕切りとして、強力な国民国家の役割が再びクローズアップされているが、権力の拘束という憲法の基本的役割及び理念を決して忘れてはならないと述べ、講演を締めくくった。
  3. 第2部・パネルディスカッション 
    第2部のパネルディスカッションでは、グローバリズムの負の側面が具現化している場面といえる外国人労働者等の実情について、各パネリストから報告が行われた。
      まず、鈴木昭弘氏は、入管手続を専門とする行政書士の立場から、在留特別許可制度の不条理な実態について紹介した。次に、外国人の労働問題に詳しい市民運動家の谷田部仁夫氏が、外国人研修生の置かれている過酷な労働環境について報告をした。そして、当会の杉本みさ紀会員は、ホームレスや外国人等に住宅を提供する活動を行う中での経験を報告した。
      各パネリストの報告によって、社会的に弱い立場にある外国人の権利がないがしろにされている実態や、その中で個人の尊厳を保護するために苦闘している人々の姿が浮き彫りとなった。
      さらに、来場の市民からも憲法や人権の考え方等を巡って質疑が相次いだ。
  4. おわりに 
    人権というマジックワードを唱えれば全てが解決するわけではなく、個人の尊厳を守るためには力が必要である。しかし、その力が個人の尊厳を蹂躙することもある。
      今回の記念行事では、憲法の役割及び理念や個人の尊厳にまつわるジレンマ等について、来場者の市民全員が、一歩深く考えられたのではないかと思う。