会報「SOPHIA」 平成22年10月号より

犯罪被害者支援連載シリーズ31


犯罪被害者支援において必要なこと

―「緒あしす」代表・青木聰子氏のご講演をお聞きして

犯罪被害者支援特別委員会 委員
山田 佳乃

 8月30日、犯罪被害者支援特別委員会にて、犯罪被害者自助グループ「緒あしす」代表の青木聰子氏に、犯罪被害者の置かれる状況及びそれを踏まえて被害者支援に必要とされることについてご講演をいただきました。

 「緒あしす」は、青木氏が14年前にご家族を亡くされる犯罪の被害にあわれ、事件の捜査・公判とその後を通じ「犯罪被害者が聞いてほしいことと周りから聞いてもらえることは必ずしも一致しない」という思いを抱かれたことをきっかけに、殺人事件の遺族を対象として平成12年に立ち上げられた犯罪被害者の自助グループです。主な活動は月に一度の定例会と電話相談を通じて体験を分かち合い、対処法を共に考えたり、司法・行政の関係各機関との連携を図り犯罪被害者の方への情報提供を行ったりすることなどで、定例会にはのべ50名(事件数にして30件強)の殺人事件の被害者遺族が参加されています。

1 犯罪被害者が置かれる状況及び犯罪被害者支援に必要なこと
@ 犯罪被害者に必要な制度的支援
 
犯罪の被害にあったとき、通常はその後(捜査を含めて)何が起こるのか予備知識を有している人は少ないため、初期段階から、専門的知識を持つ人への相談や情報提供、事情聴取等への付き添い等の支援が必要となります。
  また、犯罪の被害により家事や介護、子育て等ができなくなってしまった場合や一家の大黒柱を失ってしまった場合に、日常生活や職場での支援、生活費や葬儀代等の貸付制度の整備(犯罪被害者給付金は現実の交付まで長期間を要するため)も必要とされています。
A 犯罪被害者支援に携わる上で必要な姿勢
 
犯罪被害者は、犯罪そのものから負う傷だけでなく、捜査や公判を通じ被害を追体験したり心ない報道や風評等によりさらに傷つけられたりする「二次被害」にあうケースが未だに多いため、そのような犯罪被害者が置かれる状況についての理解がまずは必要となります(もちろん、この理解は刑事弁護人としても必要とされるものです)。
  そして、被害に対する思いは被害者ごと、それこそ同じ被害にあった家族の中でも意見や思いが異なることがよくあることを知り、「被害者感情」という言葉で一括りにせず、一人一人の被害者の話をよく聞く姿勢が、犯罪被害者支援に携わる上で求められています。

2 ご講演をお聞きして
  ご自身が犯罪被害者であるだけでなく、他の多くの被害者の方々と関わられてきたご経験があるという点で、青木氏のご講演をお聞きできたのはとても貴重な体験となりました。
  ご講演の中では、「犯罪の被害にあったという感情は、ぱんぱんに膨らんだビーチボールと同じ」という言葉が特に印象的でした。犯罪の被害にあって傷つけられた心が目に触れないように水面下に深く沈めようとすると腕に多大な負荷がかかってしまうし、深く沈めれば沈めただけ、腕の力がもたなくなったときに勢いよく水面に飛び出してきてしまう。社会としては刑事判決の確定をもって事件にピリオドが打たれたからといって、犯罪被害者はこのビーチボールを手放して、自身にとっても事件を終わらせられるというわけではない。犯罪被害者がそんな風に扱いづらいビーチボールを抱え何とかうまく付き合っていこうとしていることを理解して、一人一人の被害者に寄り添っていく姿勢が何よりも大切であることが学べたご講演でした。