会報「SOPHIA」 平成22年10月号より

再び『子どもが学ぶ法の精神』


〜法教育の理論と実践の架橋〜

【中部弁護士会連合会シンポジウム報告】

法教育特別委員会 委員
荒川 武志

 平成22年10月15日の午前、富山第一ホテルにて、「再び『子どもが学ぶ法の精神』〜法教育の理論と実践の架橋〜」と題して、中部弁護士会連合会(以下「中弁連」)によるシンポジウムが開催されました。

 過去、中弁連では、平成15年度に「子どもが学ぶ法の精神」と題し、同様に法教育をテーマにシンポジウムが、名古屋で行われていました。当時、名古屋市立桜山中学校の中学3年生を対象に実践授業を行い、それをシンポジウムで紹介し、法教育のあり方について、議論を深めました。
 今回のシンポジウムは、それから7年後の法教育の姿を、当時の反省とともに、法教育の視点も踏まえた新しい学習指導要領とも絡めながら、法教育の将来的な展望を見据え、探っていこうとするものでした。
 シンポジウムは、2部構成で行われました。

 第一部では「平成15年度の成果と展望」と題し、7年前の実践がいかなる効果をもたらしたかを検証する試みでした。

 このパネルディスカッションの目玉として、当時の中学3年生(今は大学4年生!)2人にご参加いただきました。このように、生徒の立場から法教育の効果を検証するパネルディスカッションは、全国初だと思われます。ほかに、この授業を企画された所義人教諭、この授業に参加した松隈知栄子会員をパネリストとし、さらには同じく授業に参加した矢崎信也会員がコーディネーターとなって壇上に上がるなど、当時の授業を経験した5人が、同窓会さながらに、シナリオ抜きで思ったことを自由に話をするという、かなり挑戦的なディスカッションとなりました。

 私が、法教育に携わる会員として、驚きでもあり喜びでもあったのは、当時の生徒たちが、7年たった今も当時のことをはっきりと覚えていたということ、そして何より、彼らの中に、法教育の目指すものが、意識としてしっかりとして残されていたということです。その大学生の言葉をご紹介します。

「(高校生のときに)生徒同士のディベートというのをやったんですけど(中略)自分の知ってる知識を、相手に対してバアーッて言ってしまうような子もいて。私は、中学の時に弁護士さんと一緒にディベートをするっていうのをやっていたので、その言い方をしたら、逆にダメなんじゃないかということを考えながら、ディベートしてたんで…」「相手にどう言ったら伝わるかとか、相手の意図をくみ取らずに自分の意見を言うとかってことも、もちろん全員がっていうわけではないんですけど、そういう場合も多くあって、その時に、私は少し得した気分で…」

 法教育とは、法の知識を、知識として教えるということではなく、「世の中には『正解のない問題』があり、それに直面した場合には、自分の考え方も他人の考え方もいずれも尊重されるべきであること、そして、それを十分理解したうえで行動することが大切であること」を伝えようというものです。今回の生徒の言葉は、これまで弁護士会が目指した「法教育」が、生徒に伝わっていたことを、私たちに教えてくれるものとなりました。

 第二部は、「これからの法教育」と題し、富山県立上市高校での実践授業を踏まえ、新学習指導要領とも絡めながら、法教育をどのような形で発展させ、普及させるかを検討しました。パネリストとして、岐阜大学教育学部の大杉昭英教授、富山県教育委員会より坪池宏主幹、実践授業に携わった堀内大地教授、富山の谷口恭子弁護士、福井の後藤正邦弁護士が、壇上に上がりました。
 新学習指導要領には「対立と合意」「効率と公正」等の法教育的な概念が盛り込まれ、これに伴い、弁護士会の役割も増大することが予想されます。そこで、弁護士参加による法教育の授業の実績がない富山県での実践を踏まえ、その可能性を探ろうとしました。

 授業は、労働者派遣法のあり方を検討する中で、対立価値を把握し、様々な考え方があり得ることを学ぶという形で行われました。初めての授業ではありましたが、シンポジウムでは「わかりやすかった」「法教育に馴染みがない弁護士にも理解できる授業だったのが良かった」等、評価する意見が大半だったと聞いています。そして、その授業を踏まえ、大杉教授が新学習指導要領の枠組みから講評されるなど、弁護士会と現場が連携をとり、協力すべきとの提言の中、無事、パネルディスカッションは終了しました。

 以上が報告ですが、私には「法教育」を語れるような知識も経験もありません。ただ、中弁連の各単位会での取り組みには差があるのが現状であり、今後、法教育の授業が広まってゆく中で、当会の役割も大きいのではないかと感じられました。私も委員の一人として協力してゆきたいと思います。
 私は、裏方としてシンポジウムに参加し、3日前に大学生パネリストが1人減ったり、前日のリハーサル中にパソコンのドライブが壊れるなど(!)、最後の最後まで肝を冷やしましたが、今となっては良い思い出です。

 最後になりますが、遠方にもかかわらず、ご参加いただいた皆様、そしてご指導ご協力くださった実行委員の皆様に、この場をお借りして、厚く御礼申し上げます。